AIが導く恋愛模様 1 「相性率100%!?」
初めまして、よろしくお願いします。
ある年の春、私立女子高校の3年生になり、5月の上旬に18歳の誕生日を迎えた白川萌恵は、母親に連れられて区役所の恋愛識別システム管理課で個人登録の手続きをしていた。
「ねぇ、お母さん。お父さんとお母さんの相性率ってどのくらいだったの?」
「えーと89%くらいだったかしら。どうせなら90%行けばいいのに!って思ったのは覚えてるわ」
「ふーん。私にもそういう人見つかるかな?」
「ふふ、見つかるといいわね。お母さんも楽しみ」
一通り書類を提出し、役所の手続きは待ち時間は長く、他愛もない話をしながら母親と結果を期待しながら待っていた。
しかしその受付カウンター内では、慌ただしく人が動いたりバタバタと電話をかけたり、騒然としていた。
「あ、相性率100%?!」
「そんな確率聞いたことないぞ!」
「システムのバグじゃないのか!」
「今までこんなこと1度もなかった!」
あまりの騒動に区役所の恋愛識別システム管理課のフロア全体にざわめきが巻き起こった。
「…役所の人たちすごく焦ってない?」
「そうね、…システムトラブルかしらね」
ざわつく周りにカウンター内が騒然としているのを萌恵と母親は待合室椅子に座ったまま、ぼんやりと見守った。
***
出会い系アプリ、婚活サイト、結婚相談所や自由恋愛で結婚、妊娠出産を経て家族になる日本。
女性の社会進出もあり晩婚化、少子化といった様々な問題を抱えていたが、離婚率の上昇が特に問題視され、国が莫大な予算をつぎ込み人工頭脳を搭載した恋愛識別システム、通称A.I.Sを開発し導入した。
A.I.Sは日本在住の人々から、個人データをもとに相性率を導き出しカップリングし、国が管理するアプリを経由してマッチングさせチャットを通して引き合わせるシステムだ。
自分たちの意思でそこから恋愛へと発展させていく、いわば国が運営する恋愛お助けサービスだった。
相性占いの最上級版と言ってしまえばその通りではあったが、A.I.Sの導き出す運命の相手と上手くいく確率が高く、何組も交際に発展し結果結婚へと進んだ。
300年という歳月をかけて次第に人々に浸透し、いつしかこのシステムを『常識』へと変えていった。
離婚率が3人に1人と言われていた日本だが、10人に1人になるほど減少しておりA.I.S信者も現れ始めているくらい高性能な人工頭脳だった。
国は指標として相性率85%以上で結婚推奨しており、95%以上はマッチングしてからほぼ8割の人間が即結婚へと踏み切る程の信頼度になっていた。
成人となる18歳の誕生日を過ぎたあたりから、人々はA.I.Sに登録しマッチング相手の通知を待つ。
平均4.5人ほどマッチングするため、相性率が高い相手から順に連絡を取り合うのが一般的な流れだった。
マッチングした全員と会いたいと思う人もいれば、高確率の相手がいればその人だけと会うなどは自由で、本人の意思が認められた。
必ずしも確率の高い相手と結婚しなければいけないというわけではなく、誰を選ぶかは個人の権利だった。お互いの意思があれば80%以下でも婚姻できるし、もちろんシステムを利用しない自由恋愛も存在した。
ただ、何事にも例外というものはあるもので、浅見財閥の浅見グループ会社の幹部である浅見孝之(38)はマッチングする女性が一人も居なかった。
浅見財閥は日本屈指の歴史を誇る名門で、会長の次男である孝之は、グループ傘下の銀行や投資顧問会社を統括する持株会社の役員を務めている。
世の慣習にならって18歳でA.I.Sに登録し、マッチング相手を探した孝之だったが何ヶ月経っても1年経っても相手は一人も選ばれなかった。
A.I.Sの運用資金や維持にかかる経費に多額の投資を行っていた浅見家としても、次男の一大事だったため、何かシステムの不具合ではないかと再三にわたって申し立てをした。
システム管理者も頭を捻るばかりで、システムに何も不具合は無いこと、一人も該当者がいないことはないが高確率の相手が数年かかって識別されることは前例としてあったため、しばらく待つようにとの返事しか来なかった。
金も地位もある孝之は、若いうちは同じように高確率の相手が現れない女性がチヤホヤと群がっており、相手には事欠かなかったため、あまり気にしていなかった。
社会人になってしまえば仕事が猛烈に忙しくなんならA.I.Sに登録したことすら忘れてがむしゃらに働いていた。
ふと気がつくと30代後半に差し掛かり、ここまで来ると自由恋愛を楽しんでいた同世代の女性はとっくにA.I.Sで運命の相手を見つけて結婚していくばかりだった。
人工頭脳に結婚相手を決められるのが当たり前になった世界で、誰も自分に合う人がいないと突きつけられた異様な状態に、少しずつ周囲にも噂になっていった。
『A.I.Sに選ばれないほど欠陥がある男なのかも』
『浅見財閥の子息ともあろう男が低確率だとしても1人くらいいるだろう』
『次男でよかったわね』
いらない親戚や仕事上ライバルになる相手に言われた心無い中傷にも慣れてきた孝之はもうどこか諦めていた。
結婚せず一生を終える人間など少し前はゴロゴロいたはず。
A.I.S導入から恋愛に関心を抱きやすい風潮になって繁栄した部分もあるが、登録した全ての人間が幸せになっている訳でもない。
離婚率が下がったとはいえ、高確率でも上手くいかないペアは多数いるはず。自分はそういったトラブルに巻き込まれなくて済んでいる。そう前向きに考えることで理不尽な中傷を躱していた。
そこにある日、役所から直々にA.I.Sのシステム管理課課長が孝之の浅見ホールディングスの執務室にアポなしで訪れた。
「この度は、お忙しい中時間を頂きまして、誠に…」
「前置きは結構です。課長直々にいかがされましたか」
「…はい。再三にわたって浅見孝之様の識別相手が見つからず、お声を頂戴しておりました件につきまして、…今朝ようやくお相手をA.I.Sが導き出したことを報告に参りました。」
相手が今更見つかった。
そうやたら言いにくそうに汗をかきハンカチで拭きながら説明する局長を疑い深く見つめる孝之。
様子がおかしい。
ワタワタと差し出した書類は確かに何度か見た、定期的に送られてくるA.I.Sからの定期報告書でいつもは『該当者なし』とだけ書かれていた欄に名前が印字されている。
ー白川 萌恵18歳 相性率100%ー
孝之は驚きで言葉を失った。
20年間待ち続けて現れた運命の相手は、20歳、歳が離れていた。
お読みいただきありがとうございます。




