最終章:そして伝説へ(物理的な意味で)
俺が名前を叫び終えた瞬間。
世界が静止した。
……いや、何も起きない?
光の柱も立たないし、俺のステータスも上がっていない。
「あれ? 不発?」
恐る恐るドラゴンを見る。
ドラゴンは、口を半開きにしたまま動かない。
そして。
「待チ……クタビレ……タ……」
カサッ……。
ドラゴンの巨大な身体が、音もなく崩れ落ち、さらさらとした灰になって風に舞った。
「え?」
俺は呆然と立ち尽くす。
そこへ、リリエルさんが駆け寄ってきた。
だが、何かがおかしい。
リリエルさんの服装が、さっきと違う。なんか近未来的なスーツを着ている。
「あ、やっと終わった?」
「リ、リリエルさん? その服……」
「何言ってんのよ。あんたが詠唱始めてから、300年経ったのよ」
「は?」
リリエルさんはやれやれと肩をすくめた。
「あんたの名前、『クロノス(時)』とか『インフィニット(無限)』とか入ってるでしょ? その言霊のせいで、詠唱中のあんたの周囲だけ時間の流れが超加速してたのよ。相対性理論的なアレで」
「マ、マジで……?」
「外の世界では一瞬だったけど、この結界内では300年。ドラゴンさんは寿命で老衰したってわけ」
俺は灰になったドラゴンの跡地を見た。
最強のエンシェント・ドラゴンを倒したのは、剣でも魔法でもなく、『待ち時間』だったのだ。
「すげぇ……俺、最強じゃん……」
「まあね。街の人たちは『伝説の勇者・長い人』って呼んでるわよ」
「名前で呼んでよ!」
「だって名前長いし」
リリエルさんはスマホ(いつの間にか普及していた)を取り出し、俺と灰の山をバックに自撮りをした。
「ま、結果オーライってことで。帰ろ、エタ」
「だからその略称やめろって!」
こうして俺は、異世界で英雄になった。
ただし、自己紹介をするたびに文明が数百年進歩してしまうため、俺は二度と名乗らないことを誓ったのだった。
(おわり)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「転生時に女神様が『最強の加護全部乗せで!』と張り切った結果、名前が長すぎてステータス画面がバグった件」いかがでしたでしょうか。
言わずと知れた古典落語の「寿限無」が元ネタですが「名前が長すぎて敵が老衰する」というオチが書きたくて、このお話を執筆しました。
主人公のエタ君の明日はどっちだ。
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「こんな長い名前を考えてほしい」という無茶振りも歓迎です(採用するかはわかりませんが……)。
それでは、また次の高座でお会いしましょう!




