第2章:ギルド登録は命がけ
異世界に来たらまずは冒険者ギルド。これもテンプレだ。
俺は街のギルドに向かった。
「いらっしゃいませー。新規登録ですね?」
受付カウンターに座っていたのは、長い耳が特徴的なエルフの美少女だった。
名札には『リリエル』とある。
「はい、お願いします」
「では、こちらの用紙にお名前と職業をご記入ください」
リリエルさんから羊皮紙と羽ペンを渡される。
俺はペンを握り、名前を書き始めた。
『エターナル・インフィニット・クロノス……』
……5分後。
「あの、すみません。紙が足りないんですが」
「えっ? まだ1行目ですよね?」
「いえ、まだ名前の冒頭部分でして……あと50枚くらいもらえますか?」
「は?」
リリエルさんは呆れた顔で俺を見た。
周囲の冒険者たちも「なんだあいつ」「小説でも書いてんのか?」とヒソヒソ話している。
「じゃあ、口頭で確認しますね。本人確認のためにフルネームをお願いします」
「あ、はい。言いますね。深呼吸……」
俺は肺いっぱいに空気を吸い込んだ。
これを言い切らないと、俺はただの村人Aだ。今後の人生がかかっている。
「エターナル・インフィニット・クロノス・オーバーロード、レジェンダリー・カタストロフィ・フェニックス・リバース……」
俺は朗々と読み上げた。
リリエルさんは最初はニコニコ聞いていたが、次第に真顔になり、やがて虚無の表情になった。
「……アビス・オーシャン・アンド・ギャラクシー・スターダスト・ウィズダム……」
10分経過。
リリエルさんが編み物を始めた。手際がいい。
「……アクア・エンド・クラウド・ハイ・ウィンド・デスティニー……」
30分経過。
リリエルさんがお弁当を食べ始めた。唐揚げが美味しそうだ。
「……サンクチュアリ・オブ・ヘヴンリー・フォートレス・イージス……」
1時間経過。
ギルド内の冒険者たちが賭けを始めた。「あと何分続くか」に銀貨が積まれている。
「……カオス・ラビリンス・ヴォイド・ウォーカー・イン・ザ・ダークネス……」
俺の喉が限界を訴え始めた。だが止まるわけにはいかない。
リリエルさんはもう寝ている。
「……エルドラド・パイポ・ゴッドスレイヤー・エクスカリバー・シューリンガン……」
夕方になった。
リリエルさんが目を覚まし、「まだやってたんですか?」という顔をした。
「……ガーディアン・ドラゴン・バハムート・グーリンダイ……」
「……ファンタズム・スピリット・エレメンタル・ポンポコピー・アンド・ポンポコナ……」
そしてついに、ラストスパート。
「……アルティメット・ニルヴァーナ・サクセサー・ラスト・エンペラー・チョースケ!!」
「はぁ、はぁ、はぁ……い、以上です……」
俺はカウンターに突っ伏した。
静まり返るギルド。
リリエルさんは編み上がったマフラーを巻きながら、ニッコリと笑った。
「長い! 3行でまとめて!」
「えぇ……」
「登録名は『エターナル(以下略)』にしておきますね。はい、ギルドカード」
渡されたカードには『エターナル(以下略)』とだけ書かれていた。
俺の努力は一体。
「呼びにくいから、通称『エタ』君でいいわね」
「縁起でもない略し方やめてください!」
こうして俺の冒険者生活は、不吉な略称と共に幕を開けた。




