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睡眠術師  作者: 六方晶
夢の始まり
2/4

夢の仕事

 携帯のアラームを止めて、ソファから起き上がる。

 なんだか、久しぶりに夢を見た気がする。

 忙しくて寝る暇も削っていたものだから当然か、とも思う。

 夢の内容を思い出しながら、朝の支度を終わらせる。

 夢の記憶というものは曖昧なもので、支度が終わる頃にはほとんど忘れてしまっている。


「なんで僕は泣いていたんだっけなあ」


 朝から考えることも無いので、無駄な思考で頭を起こす。

 僕が泣いていた理由がどうしても思い出せなくて、諦める。

 夢に関する仕事をしているというのに、情けないな、と僕は思った。

 天気予報を見ながら朝ごはんを食べていると、2階の寝室から物音がした。

 おかしいな、この家は僕だけしか住んでいないのに。

 どうにも故意的な物音で、気になって、朝ごはんを食した後見に来た。

 昨日は久しぶりに苦労する仕事で、帰ってきてすぐ疲れてソファで寝てしまったはずだ。

 ベッドには何ら変化はなかった。

 書斎には相変わらず積まれた本たちが整列している。


「気のせいかなあ」


 僕は訝しんだ。

 10分程部屋を見回したが、どこにも変化はなかった。

 これはまさに気の所為だったのだ。

 久しく夢を見たせいで脳がメルヘンチックになっているのだろう。

 そう思い込むことにした。




 今日の仕事は手のかからないものだったと思う。

 依頼者の家までは、車で45分ほど。

 建物の濃密さにはうんざりするが、依頼が多く入るかつ、移動時間が地方より少ないことは都会の利点だ。

 朝の渋滞に軽く怒りを覚えながらも、僕はそんなことを考えていた。


「おっと、依頼者情報を聞かないとね」


 顧客には必ず音声で病状を報告してもらっている。

 車の中で聞けるし、そもそも僕はドライブ好きだ。

 信号待ちの片手間でスマホの音声ファイルに手を伸ばした。


「今回はよろしくお願いします。山田と申します。

 息子の悪夢の件での相談です。

 私事で申し訳ないのですが、先月で息子は10歳になりました。

 ですが、その一週間後から太一の顔が暗くなりました。

 なにかあったのかと聞いても、その時ははぐらかされていたのですが、先週の日曜日とうとう相談されまして、悪夢にうなされていると言うんです。

 最近は寝るのが怖いと寝不足で…体重もみるみる減っておりまして…

 そんな時、鷺さんの存在をウェブで知って、

 心配なんです!どうにか早い治療をお願いします」


 途中の母親の迫真さには驚いたが、いや驚いてエンストしちゃったよ。

 それはともかく、こういう依頼はよくくる。

 昨日だって、年配のおじさんの依頼だった。

 年配の方は治療が難しいので、後回しにしがちだが、20代までなら簡単な方法で済む。

 いやしかし、1ヶ月ほど放置したのなら少し危ないかもな…

 まあなんとかなる。

 これが終われば今日一日は自由だ。




 依頼者の家に着いた。

 外車が停まっている一軒家は…庭の盆栽が目立つな。

 表札の山田を確認して、インターホンを鳴らす。


「睡眠治療の鷺と申します。

 本日はよろしくお願いしますー」


「山田です。

 お願いします。今行きますね」


 出てきたのは35歳くらいの女の人だった。

 まさに人妻、しかも美人さんだ。

 挨拶をした後、1階奥の寝室に通された。

 移動中に見た家の中はまあ普通。

 人の住まいにお邪魔出来るのもこの仕事のいい所だ。


 奥では山田さんの息子と思われる子供が、苦悶な表情で寝ていた。


「最近は夜に眠れなくて、今日も寝たのは5時からなんです」


 山田さんの病状の説明を聞きながら、息子さんを眺める。

 整った顔の目元には大きなクマが見える。

 これはあと1週間遅れていたら手遅れだったかもしれない。

 簡単な治療の説明をして、早速治療に取り掛かる。


 床に枕を置いて、部屋をなるべく暗くした。


「施術は恐らく1時間ほどで終わりますので、別室でお待ちください」


「どうか太一を、お願いします」


 そんな気負う必要もないのにと思いながら、奥さんを見送った。

 山田さんが部屋から出たのを確認して、改めて息子さんを眺める。


「よし、これならこのプランでいくか」


 僕は枕に寝転んで、夢に飛び込んだ。

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