言いたいことも言えないこんな世の中じゃ 2
読んでいた文庫本を閉じ、声のほうへ視線を向け振り返る。
するとそこに立っていたのは、たまたまゼミで席が隣になり、社交的な彼女のほうから話しかけてきてくれて友人となった西川陽菜が立っていた。
西川陽菜。スレンダーだが、出るとこでている女性として有益な体型をしていて、身長は150代後半。金に近い茶髪に染めたセミロングの髪を揺らしている。髪の色からギャルを疑う人もたまにいるが、別にギャルではないのですっぴんではないが、薄めのメイクをしている。今日は体のラインが強調される黒いTシャツに足の細さが強調されるスリムフィットの紺色のGパンを履いている。そして、熱いから脱いだのか少し色のあせた、それが逆におしゃれに感じるビンテージのGジャンを腰に巻き、ずいぶんボーイッシュでアクティブに感じる恰好をしている。
そんな彼女には友人間でとあるあだ名がついており、その名は愛の戦士。
なんだ、それってあだ名であるが、理由を聞けば一応納得がいく理由で彼女は愛の戦士と呼ばれている。
愛の戦士。そんなあだ名の理由だが、彼女は別にお金持ちの家の子ではないが、べつに実家が貧乏な苦学生というわけでもない。なのに、彼女は貪欲にバイト代を求め、空き時間に大体シフトを入れ、コンビニバイトなど複数の仕事をかけもちし、仕事に精を出し、そして、それなりの額のバイト代を稼いでいる。
そして、それをあるものにつぎ込んでいる。それは、端的にいって、推しに。
推し活。そう、彼女のバイト代は推し活、つまり、大好きなダンスボーカルグループのメンバーのライブやCDなどのグッズに注ぎ込まれているのである。
働き者の彼女の推しに捧げる額は決して安くはないが、彼女になんでそんなに貢ぐのか、興味本位で友人の一人が聞いてみたら、推しへの愛をそりゃあ、もう飲み会がオールになる勢いで語られてしまったのである。
その愛のすさまじさについたあだ名が愛の戦士である。
推しについて語るとき、あいつは獰猛な戦士だ…。(オールで語られた友人談)
まあ、そんな彼女が話しかけてきたわけである。
「いや、単なる料理の文庫本」
「へえ、続いているんだね…」
そう言いながら、学食の空いた隣の席に陽菜は座り悪意の感じない笑顔を向けてきた。
その邪気のない笑顔に思わず、別に緊張していたわけではないが、少々、心がゆるんだ気がする。
この笑顔と、まっとている空気感。それは見た目や体型とも違う、彼女の美点のひとつだろう。
「まあ、とりあえず、三日坊主にならずに続いてるよ」
苦笑しながら、私はそう返す。そう私にとって、料理は三日坊主にならずに済んでいる。特別ではないが、昔はなかったのに、今ではありふれた日常の一つになった生活の一部。
それが料理。特別ではないってことが、多分、重要なのである。
「最初、みんなとの家飲みの時の青葉、初心者過ぎてやばかったのにねー」
だから、すぐに投げ出して終わると思ってた。
陽菜はそう言って、昔の私を思い出したのか、クスクスと笑っている。
そんな彼女に、私は再度苦笑する。
そう、私と昔はなかったのに、新しい生活の一部の日常となったもの―料理の始まりは、ゼミの友人との飲み会、家飲みでの出来事がきっかけだった。




