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遭遇

 ――伊織と実央が凛を家へ送った後のこと。

 二人はそれぞれ目的地は違うが、途中までの道のりは重なるため共にしていた。

「正直、紗良のことがショックすぎて気が動転して……あんな凛見たことなくて、何もできなかった。……実央、ありがとう」

「俺だってパニックで必死だったわ。……けど、せめて俺らだけでも冷静を装わないと、それこそ凛が潰れるぞ。」

 伊織はパニックになりながらも凛のために考えて対応している実央を大人だと感じた。自分にはまだその胆力を持ち合わせていないと痛感する。

「……俺さ、一年の頃から凛のことは知ってたけど話したこと無かったんだ。天英会の人ってことは有名だったし、正直周りのこと見下してんだろうなって思ってた」

「実央……」

「けど、全然違った。普通の女の子だった。親もあんなだし、今までの拠り所が紗良だけだったんだろうな。凛は討伐士としては大人顔負けだけど、それ以外の部分は俺たちと同じ高校生なんだよ」

 普段の落ち着いた立ち振る舞いや格が違う討伐をしている凛を見てきたことで、伊織も近しい考えをしていたと気付かされた。

 思い返せば凛の母親が訪れたときもそうである。母親の姿を見た途端に雰囲気が変わり、言われるがままになりかけていた凛がいた。あのときに気付いていればと伊織は悔やむ。

「討伐士じゃない俺はこれくらいしかできないからな。……お前と違って」

 実央もまた、討伐士として凛を支えられる伊織を羨望し無力な自分に対して歯痒い気持ちを抱えていた。




「伊織、本当に大丈夫なのかよ」

「初めてで緊張するけど、凛にあれだけ鍛えてもらったし多分大丈夫!」

「……そっか、じゃあ気をつけてな」

「実央も気をつけてね」

 伊織は巡回へ、実央は自宅へと道を別れ、歩みを進める。

 伊織が巡回を初めて数分ほどしてからのことだった。


 ぐす……ぐす……


 人通りの少ない道中、電柱の側で三つ編みの少女が屈み込み泣いていた。見るや否や、伊織は駆け寄る。

「どうしたの? 外は危ないから、早く家に——」

 三つ編みの少女が伏せていた顔を上げた瞬間、見慣れた針のような虹彩が目に入る。伊織は反射的に後方へ跳躍し距離を取った。しかし、少女の攻撃がコンマ数秒早く伊織の左袖を引き裂き、上腕から小さな赤い泡がぷつぷつと溢れる。

「チッ、掠っただけか……会いたかったよぉ、お兄ちゃん!」

「人型の芥……!?」

 人型であり人語を話す、そんな芥を見たことも聞いたこともない伊織は動揺を隠せなかった。だが特徴的な目は芥だと証明している。

 異常事態と判断した伊織は左手をポケットへ忍ばせスマートフォンで応援を要請した。

「失礼だな〜。これが本来の姿だよ。いつもは人間が分かりやすいように姿を変えてるだけ」

 芥少女はやれやれと言いたげに肩をすくめる。そして伊織は確信を持つために問うた。

「……紗良を……夜中、女の子を殺したのも君か……?」

「夜中……えーと……ハイハイあの子ね! そうだよ、私。とりあえず雑魚で様子見っていうか、肩慣らし? まぁ肩慣らしにもならなかったけどね」

 アハハ、と笑いながら答える彼女。伊織は冷ややかな表情の中に怒りを孕んでいた。背負っていた薙刀を袋から取り出し、中段の構えをする。

「そっか……じゃあ遠慮なくいけるね」

「わぁ、昨日よりは楽しそう! ……お兄ちゃんこそ、早く死んでね」

 芥少女は伊織を目掛けて大きく振りかぶり跳躍する。伊織は即座に右側へ飛び避けたため、鎌のような爪は地面を突き刺した。その隙を狙い右斬り上げを放つが左爪の背面で防がれる。

 だが怯むことなく間合いを詰めながら左横一文字斬り、右袈裟、左斬り上げを繰り出す。しかし芥少女は遊んでもらっているかのように笑いながらギリギリで避ける。伊織の攻撃は芥少女の衣服をわずかに切る程度のもので、負傷には至らない。

 突きを放った瞬間、芥少女に懐へ入られ柄を左手で握り止められる。

「もういいや、つまんない。そろそろ本気出していい?」

 芥少女は右手も柄を握ると薙刀ごと伊織を投げ飛ばした。運良く後方にあったフェンスにキャッチされるが強い衝撃を受けたため咳き込み、呼吸はままならない。

 その隙を見逃すはずもなく芥少女は追撃する。すぐさま立ち上がり右爪を柄で防御するが、左手がフリーとなり右肩に裂傷を負う。

「ぐ……!」

「痛い? ねえ痛い? あははは!」

「なんで……そんなことができるんだ……」

「は?」

 芥少女は爪を振りかざす寸前でぴたりと攻撃を止めた。

「今まで散々、人に怪我をさせて、迷惑をかけて……紗良を、殺して……なんで笑いながらそんなことができるんだよ……」

 ふつふつと湧いてくる悲しみ、怒り、憎しみ。薙刀を握る力は更に強まる。

「お前たちのことは……絶対に許さない!」

 その言葉に芥少女は目尻を吊り上げ歯を食いしばる。快楽殺人鬼のような笑顔は一瞬にして消え去った。

「全部……全部全部全部全部全部!! お前らのせいだろうが!!」

 猛烈な勢いで繰り出される切り裂き攻撃。伊織は致命傷を負わない程度の防御で精一杯だった。

「絶対に許さない? 言ってくれるね! 私だってお前ら人間のこと、絶対に許さないから!」


 その瞬間だった。

 ドスッ、と鈍い音が響く。

 それは芥少女の右脇腹にレイピアが突き刺さった音だった。


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