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「で? 月宮くんとはどうなったの〜」

「……」

 教室で顔を合わせた途端、ニヤニヤと尋ねてくる紗良。まるで自分はこの展開を知っていましたよと言いたげな顔である。

「まあ……これからも一緒に組むってことに——」

「おめでと〜う! 私はこうなる未来が見えてたけどね? 先見の明ありすぎじゃない?」

 大袈裟に拍手したかと思えば素晴らしいほどのドヤ顔を披露する紗良。

「な、なんかムカつくな……!」

「凛と何年友達やってると思ってんの〜。どんな人が相性良いかなんてすぐ分かるってば!」

 色々とツッコみたかったが、あえてスルーしておく凛。

 その直後、クラスメイトの女子生徒から「天羽さん、男子が呼んでるよ」と伝えられ廊下に出ると月宮がいた。

「天羽さん!」

「なに、どうしたの?」

「お願いがあるんだけど……今日の放課後、暁ノ討伐士連合に付いて来てもらってもいい……? まだ手続きできてなかったからさ……!」

 月宮は両手を合わせ申し訳なさそうに頼む。特に大事な予定もないので凛は即答で応じた。




 放課後、月宮と共に暁ノ討伐士連合へ足を運んだ。連合の事務所は三階建てのこじんまりとしたビル。年季が入っているのか、やや建て付けの悪いガラス扉を開ける。

「ほら、あそこ受け付けだから」

「分かった! ごめん天羽さん、ちょっと待っててね!」

「ゆっくりでいいよ」

 壁にもたれ一息つきながら月宮が受付へ行くのを眺める。

 〈なんか……人生が想像と違う方向に進んでる気がする……〉

 凛は六歳くらいの頃には自分がどんな人生になるのかを大体把握していたつもりだった。

 討伐士になって、祖父から継いで当主となって、天英会を率いて連合の仕事も担う。

 山も谷もなく、ゴール地点が見えた人生を歩むのだと思っていたが、どうやら小さな山程度はあったらしい。

 ぼんやりと考えていた頭を切り替え、月宮を見る。すぐに終わると言っていた手続きのはずが、なにやら揉めている様子であった。

「どうかしたの?」

「それが……」

「月宮様のお名前が、宵ノ討伐士連合の名簿に登録されてないんです」

 受付のお姉さんは困った表情で丁寧に説明した。

「も、もしかして実績が無いから除名されたんですかね……」

「いえ! そのようなことはないですよ!」

 落ち込みながら尋ねる月宮にお姉さんは慌てて否定する。

「あの、それでしたら新規申請いたしますか? すぐに終わりますし」

「じゃあ、それでお願いします。ごめん、天羽さん!」

「全然気にしないで」

 若干のトラブルはあったものの、無事に手続きができることに凛も胸を撫で下ろした。

 そして申請から少しばかり待機すると、再度呼ばれる。

「申請の方は問題なくできました。これで暁ノ討伐士連合の名簿に月宮様が登録されています。」

「良かったー……」

 はぁあ、と大きな息をついて安心する月宮。表情豊かだなぁと凛はほんの少しだけ笑った。

「そしてこちらが、これから月宮様が担当となる巡回エリアです」

 お姉さんは赤ペンで一部を囲った地図を見せた。

「えっ」

「どうかされましたか?」

「あの……このエリアって個人ですか? 俺だけ?」

「はい、そうです」

「……天羽さん……!」

 この世の終わりのような顔を向けられ、凛はたまらず吹き出した。

「だ、大丈夫だって、私もいるし。それに巡回は努力義務だからできる範囲で良いんだよ」

「そ、そっか……それは宵と一緒なんだ……」

 説明を受け終え、二人は事務所を出る。

「じゃ、月宮くんの巡回エリア行こうか」

「えっ、う、うん……」

 月宮が持っている地図をちらりと覗き、凛は先頭を歩きだした。月宮は凛を追いかけ横に並ぶ。

「ごめん、巡回のやり方が宵と違ってるの知らなくて……俺のエリアも来るなんて大変だし、自分でなんとか――」

「別に大変じゃないよ。一緒に組むって決めた時からこうすることは考えてたし。……っていうか、私も巡回のやり方違うの知らなかった。そっちではどうやってたの?」

「えっと……討伐士がグループ分けされてて、それぞれがエリアを担当してたって感じ。……参加はしてたけど、戦力外過ぎて皆から認識されてなかったと思う……あはは」

 なるほど、それならば完全に放置をしていてもなんとかなるわけだ。と凛は思った。最初から暁にいれば……とも考えがよぎったが、それはそれで天英会絡みの人間関係問題に巻き込まれるだろう。

 結局、どこの土地にも良し悪しはあるというものだ。

 そうこうしているうちに月宮の担当エリアへ到着。人通りは少なく、ところどころに民家が立っておりすぐそばには山がある環境だった。

「良かったね、芥よりオバケが出そうな場所だよ」

「そっちの方が怖いんだけど!?」

「じゃー芥の方が怖くないってことだね」

「い、いまの話だとそうなるけど、芥も怖いよ!」

「はいはい、行くよ」

 冗談を交えて緊張をほぐしたところで足を踏み入れる。道路は一応舗装されているが、脇には雑草がのびのびと育っており手入れがされていないことを物語っている。一通りエリアを巡回するが、芥には遭遇せず無事に終える。

「あー、ホッとした……」

 月宮の額は若干汗ばんでおり、緊張していたことが伝わってくる。

「次、私のエリアに行くけど来る?」

「もちろん!」

「昨日行ったから分かると思うけど、人通りの多い住宅街だから絶対出るよ。大丈夫?」

「い、行く! 行くよ!」

 まるで今からスカイダイビングでもするかのような意気込みである。月宮の表情は不安に満ちていた。

「……もしかして昨日のこと、トラウマになってない……?」

 昨日、月宮の討伐をチェックしたいがために軽い気持ちで一人で向かわせてしまったことを後悔し始めていた。まさか芥に恐怖心を抱いているとは露知らず、ひどいことをしてしまったと感じた。

「こ、怖かったけど、俺が教えてって言いだしたことだし……」

「それなら無理しなくて良かったのに。……ごめんね、もう一人で行かせないから」

「ううん。あ、ありがとう。」

 その後、凛は自身のエリアには無理してこなくても良いと伝えたが、月宮は討伐できるようになりたいから、と巡回を共にすることを決めた。

 今回は見学ということで討伐には参加させず、芥を発見したときは凛のみで討伐を行った。




「天羽さん、今日は色々ありがとう」

 帰り際、月宮は改めてお礼を言う。

「全然大したことしてないよ。芥にはこれから徐々に慣れていこう」

「うん……頑張るよ」

 ふと感じた疑問を凛は尋ねた。

「ねえ、なんで……討伐士になったの?……芥が怖かったら、無理に討伐しなくてもいいんじゃない……?」

 月宮は背負っている薙刀に手を当てながら話した。

「母が……討伐士をやってたから。この薙刀も母の形見なんだ。憧れだったから、なりたくて」

 身内の仕事を継ぐ。やっていることは同じなのに、感情の向き方が真逆だと凛は感じた。

 自分もそういられていたら、今とは違ったのだろうかと考えてしまう。

「……そっか、じゃあ、立派な討伐士になるまで育てなきゃね」

「天羽さんは恩人……いや、恩師です……」

「早すぎない?」

 そんな会話をしながら二人は家へと向かった。








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