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初戦

 その日の放課後、凛と黒髪の討伐士は巡回を始めようとしていた。

「い、一回だけだからね!?」

「ハイ! ありがとうございます!!」

 黒髪討伐士はお行儀良く返事し、二人で歩む。巡回場所は学校から出たところの住宅地域。

 人気はなく、風に吹かれた草や葉同士が重なる音と足音の合奏が響く。そんな空間を彼が破る。

「天羽さんは、いつから討伐を?」

「いつかな、忘れちゃった。多分五、六才には実戦始めてたかも」

「五、六才!? 俺中一からなんですけど!? やっぱり、天英会……に入ってるから、ですか?」

「あー、まぁ……でも本当、大した組織ってわけじゃないよ。……っていうか、同い年なんだから敬語やめて」

「わ、わかった……」

 そのあと、黒髪討伐士の発言に疑問を抱いた。中一から始めたのならば、討伐士歴は三〜四年。ソロでの討伐が余裕であってもおかしくないはずだと。

「月宮くんはなんで教えてほしいの? その経験年数なら教えることないんじゃない?」

 彼は下を向き、凛から視線を外して答える。

「本当に恥ずかしい話なんだけど……まともに討伐した経験がなくて……」

「……え?」

 まともに討伐をしたことがないとは一体どういうことか。師がいなかったのか。それにしても周りの討伐士たちはなにをしていたのか。考え込んでいたそのときだった。

「あっ、天羽さん!」

 黒髪討伐士が指を差した方向の路地裏から、ガサッと音が鳴る。三体の芥がゴミを漁り、物を薙ぎ倒している最中だった。

「ちょうどいいところに……さ、実戦と行こうか」

 凛はレイピアを、黒髪討伐士は薙刀を構え戦闘態勢に入った。


「まず、月宮くんだけ行って様子を見させて。やばくなったらサポートするから安心して」

「う……よ、よし……!」 

 とは言ったものの、彼が怪我をするようなことになれば示しがつかないと責任を感じ、凛はグリップをより強く握る。

「こっちだぞ!!」

 月宮が意を決して大声を出すと、三体の芥が同時に彼の方を向いた。

〈来る……!〉

 いつでも飛び出せるよう、一段と姿勢を低くする。しかし。

 芥たちは再びゴミに視線を戻し、遊び始めた。

「な、なんで……?」

今まで見たことのない様子に愕然とする。月宮は何度も注意を向けようとするが、変わることはない。

 彼は間合いを詰め薙刀を大きく一振りするが、芥たちは軽々と避ける。存在を認知していないわけではない、本当に興味を示さないだけなのだ。

 このままでは埒が明かないと判断し、凛は芥たちの眼前へ現れ路地裏から誘い出そうとする。

 月宮のときとは打って変わり、餌に飛びつく魚の如く勢いよく飛びかかる。しかし何百回と討伐してきた経験から行動は予測可能。ひらりとターンし距離を取るため後方へ跳躍する。

 道路を挟み、路地裏の反対側には空き地。空き地の方向へ駆け出し、設置されているフェンスの上へ飛び乗る。芥もついて行くが同様に飛び乗れるほどの身体能力はなく、ウサギのように跳ねる程度であった。

「月宮くん! いくよ!」

「えっ! あ、うん!!」

 凛はフェンス上から勢いをつけて二体を、月宮は背後から一体を斬った。




「す、すごい……自分が……初めて討伐……!」

「初討伐おめでとう。」

 喜びを噛み締めている月宮を見てくすりと微笑した。そのあとにコホンと咳払いをする。

「さて、さっそくなんだけど……言いたいことは色々ある」

「は……はい!」

 月宮はしゃきりと姿勢を正す。

「動きがぎこちないね、薙刀の振りは良いけど、動作が遅いし大きくてバレてる」

「うっ、本当にその通り……」

 分かりやすくしょんぼりする様子に可哀そうな、可愛いような感情を覚え口元が緩みそうになるがグッと堪える。

「あと、真正面から気を引いたら警戒されるのがオチだから悪手……って言いたいところだけど、なんなのアレ。完全に無視されてたけど、どういうこと?」

「俺にも、分からない。……ずっとこうなんだ。だから本当に経験も無くて……宵にいたときも『まともに討伐できないんだから集団討伐に参加しろ』って言われて……けど、どうしたら良いのか分からなくて……ほとんど突っ立ってただけなんだ」

 月宮の過去がほんの少し垣間見えた気がした。初めから役に立たないと決めつけ放置していたのだろう。他人ながら憤りを感じた。

「そう、なんだ。けど、あんなに無視されるなら、不意打ちで背後から討伐できそうだと思ったんだけど、無理なの?」

「みんなの役に立たなきゃ、ってことばっかり考えてたから、思いつかなかったなぁ……今はまだ一人で討伐はちょっと怖いかも。……情けないよね」

 月宮は苦笑しながら恥ずかしそうにぽつりぽつりと話した。

〈そうか、この人は右も左もわからないまま、ずっと苦しんでたんだ。〉

 目の前に悩んでいる人がいるのに、自らに叩き込まれた技術を今ここで助けるために使わずしてどうする、と決心した。

「月宮くん、情けないって言ったけどそんなことないよ。だって昨日、女の子助けに来てたよね?」

「……それは、討伐士だから行くしかないって、思って……でも実際、討伐できる自信なんか無かったよ……」

「それって、すごいことだと思う。一人で勇気出して向かうなんてなかなかできないよ。あとは経験を積んで練習していけば良い。一緒に組もうよ」

 あんなに教えられないと嫌がっていたのに、なんて変わりようだと心の中でツッコんだ。

「一緒に……?俺が、天羽さんと……? 天羽さんは本当に強くて、天英会に入ってて……そんな人と組むなんて、良いのかな」

 初対面のときや学校で会ったときとはまるで違い、弱気な月宮。自分よりも二十センチメートルは背の高い彼がか弱い小動物のように感じた。

「私が良いって言ってるから良いの。所属なんかただの名前、討伐士に階級なんかないでしょ」

「ありがとう……そんなふうに言ってくれた人、天羽さんが初めて」

 月宮は両目を拭い、笑った。

「これからよろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 二人はパートナーとして組むことを約束し、今度こそしっかりと握手を交わした。





 

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