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1.会いましょうか

 サエ:

『それじゃあ今度会ってみるかい』






 は? と思わず息が漏れる。


 薄暗い部屋、輝度最低のFHDディスプレイがぼんやりと示す『新着メッセージ』の通知。呆けて固まったまま、カチコチ時を刻む秒針の音に頭が警告を発した、この間はマズイと。キョドっていたのがバレるではないか。この女に隙を見せては死ぬまでイジられる。






 カモリ:

『えっ』

『マジか』


 サエ:

『マジマジ』

『そもそも出会い系(そういう場)だろう? ここ』


 カモリ:

『アプリ使いにくいっつって今はディスコだけどな』


 サエ:

『アレほんと使いにくいよねえ。PC版は毎日ログアウトされるとかはまじ』


 カモリ:

『携帯なら落とされないけどな。でもアレでチャットポチポチやってらんねー』


 サエ:

『それなあ。ってか携帯www せめてスマフォと言いたまえよアラサー君www』


 カモリ:

『うるせー三つ上の崖っぷちめ。平成初期臭が滲み出てんぞ』


 サエ:

『はあ~? ライダー全盛期ディスとか令和キッズか?』


 カモリ:

『未だにクウガ超えられないのアレヤバすぎるよな。残当だが』

『あ、でもガヴクッソ面白いわ。危うくスルーするとこだった』


 サエ:

『クウガだのアマゾンズだのに囚われた、哀れな老害世代にはぶっ刺さりだよね』

『君が楽しんでくれてるなら、僕も勧めた甲斐があったよ』


 カモリ:

『ちなみにプリキュアはヒープリ復帰だから令和キッズを名乗ってる』


 サエ:

『令和にニチアサ復帰してくる平成一桁生まれはただのバケモノなんだよなあ』

『ところでGoプリはどうした貴様』


 カモリ:

『スマプリは見てたんだよ……。むしろあそこからハマったんだが』


 サエ:

『把握した。皆まで言うな』


 カモリ:

『レジーナェ……。でも最近はひたすら右肩上がりだと思ってます。マジで』

『とりあえずGoだけは時間作って見るわ』


 サエ:

『最新作周りが異端過ぎて並行しても楽しめると思うよ。一日一話見とくといい』

『……で? 会うのかい、会わないのかい』


 カモリ:

『……チッ』


 サエ:

『やっぱり誤魔化そうとしていたなこのヘタレめ』


 カモリ:

『だってよー』

『ナマの俺晒して失望されたくない』

『あと今の距離感がクッソ心地良いから崩したくない』


 サエ:

『思った以上にヘタレた理由だった……』

『いい年こいてTLのきぶり系幼馴染か君は』


 カモリ:

『それはそれとして、そろそろ誘うべきか悩んでたところに先手打たれた』


 サエ:

『さっきの理由は何なんだよ!』


 カモリ:

『面白いかなと思って言ってみた。本音ではある』

『だからって怖がって縮こまっても、何も変わらんし時間の無駄だからな』


 サエ:

『君のそういう人生捨て身なところを好ましく思うよ』


 カモリ:

『ミミロップのすてみタックルは強い』


 サエ:

『シコ豚がよお……。どうしてSVに出られないんだ……』


 カモリ:

『二十年ぶりに遊んだのに、アルセウスから連れて行けなかった悲しみよ』


 サエ:

『……それで?』


 カモリ:

『……会いま、しょうか』


 サエ:

『何故に敬語』

『それじゃ明日ね』


 カモリ:

『明日ァ!?』


 サエ:

『暇だろ?』


 カモリ:

『お前なあ仮にも一端の社会人が早々土日にヒマしてると……ヒマだけどさ』


 サエ:

『土日に医者以外の予定があったところを見たことが無い』


 カモリ:

『お前とゲームして遊ぶために空けてんだよ言わせんな馬鹿』


 サエ:

『きゃっ』

『まあ冗談はさておき、そもそも君から話振ったんじゃないか』

『「そういや今日からプリキュアの映画だな」って』


 カモリ:

『映画にかこつけて誘おうかと思ってたんだけどなー……』


 サエ:

『そんな空気を感じたから先手打って潰させてもらったよ』


 カモリ:

『お前のそういうクソ女っぷり、遠慮なく殴れて好きだよ。覚えてやがれ』


 サエ:

『いやん』


 カモリ:

『んじゃあ明日の昼過ぎ、二人分確保しとくわ』


 サエ:

『近所住まいなの分かってると話が早いね』


 カモリ:

『一ヶ所しか映画館無いからな……。田舎ではないが陸の孤島よ……』

『……ああ、それとさ』


 サエ:

『ん?』


 カモリ:

『その、俺、あまり女慣れしてないというか』

『そも他人と私的にお近づきになることすらほぼ無かったもんで』

『知らずになんかやらかしたら、ちゃんと指摘してくれると助かる』

『黙って減点して、幻滅して、静かに縁切るのだけは止めてくれ』

『お前とはせめて友達で居続けたい』


 サエ:

『ん。分かった』

『僕も、他人のこと言えたものではないからね』

『お互いさまで、ということでどうだい』

『これでも結構ビビってるんだ』

『決着は早めにつけたい』


 カモリ:

『それで明日か……』


 サエ:

『皆まで言うものではないよ』


 カモリ:

『分かった。それじゃあ、楽しみにしとく』


 サエ:

『こちらこそ』

『ああ、そうだ』


 カモリ:

『あん?』


 サエ:

『僕からも、一つ頼む』

『できれば直接会っても、あまり身構えずに、畏まらずに居てほしいんだ』

『かくいう僕も、普段の君との距離感を、心地良く思っているのでね』

『生身の僕が相手だからと、気にせずいつも通りに接してくれ』

『僕もなるべく、君が遠慮なく殴れるクソ女で居ようと思う』


 カモリ:

『おう、分かった』

『それじゃあ』






 カモリ:

『普段通り『うんこちんこまんこで爆笑する小学生ノリ』で行かせてもらうわ』


 サエ:

『台無しだよ』






        ◇






「……は?」


 目を疑った。


 ロリが居た。


 柔らかくウェーブのかかった肩ほどの黒髪。小さな頭に大きな目。どこを取っても多少力を入れれば折れてしまいそうなほど細っこい体躯は、サバ読んで一六五センチがやっとな俺の、胸ほどの身長しかなかった。


 真夏の日差し、人が行き交うショッピングモールの屋根の下、白黒日傘の中でポシェットを肩掛けにした、同じく白黒のお人形みたいなフリフリお洋服は、実にそれっぽくあざとくも具体的に何と呼称すべきかの語彙が無い。


 まさかと、そんなはずがあるかと、黒髪黒目の太眉ユニクロ男が、少女の大きな瞳の中でアホ面を晒している。遂に現実そのものを疑い始めたスッカラカンな頭蓋を中身ごと叩き潰すがごとく、目の前のロリが静々と日傘を畳みながら、小さく首を傾げて放った一言は、


「君、写真と違わないかい?」

「お前だよ! 俺はどう見ても写真そのままだろうが!」

「いや、なんかこう、角度が。……さてはキメて撮ったね?」

「そりゃあキメたよなあ履歴書写真だからな! 不器用に笑顔作ったよ角度はこれ以上なくド正面だよ! あとついでに写り悪くて毎回違う顔になってるよ!」

「あーそれ分かるよ。僕も毎回「誰だコレ」って顔になってて……」

「写りを気にする前に自分の顔を撮れえ――ッ!」


 ゼヒゼヒと、息継ぎも人目も忘れて片っ端からツッコミを入れていれば、ふと思い当たる。そういやコレまんまいつものチャットノリだわと、視線を下げれば目の前のロリはきょとんと目を丸くし、口元に手を当てくっくと喉を鳴らして、堪え切れずと朗らかに笑い始めた。


 年齢二桁がやっとの子供が精一杯背伸びしてみせたような、甘ったるさを隠し切れないやや低音の響きは、「あーあ」と目尻に浮かぶ涙を拭ってようやく止まり、


「初めまして。カモリ君」

「初めてって感じがしないんだけどなあ。サエさん」


 なんだいナンパかい? という性懲りもない軽口には、そりゃあナンパしたんだからな、とツバ吐くように返しておく。


 そもそもコレは、出会い系である。





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