98.次の残骸
話し合いは終始、スムーズに済んだ。
クオリッサが非常に協力的だったのが大きい。
書類に不備はなく、話し合い自体はとんとん拍子に進む……。
30分ほど話して、ロダンがクオリッサへ最終確認をする。
「――では、王都守護騎士団も人員を配置いたします。よろしいですね?」
「はい……費用はもちろん当方から。他にも何かありましたら、いつでも仰ってください」
クオリッサの意志は揺らがない。
何が何でもやり遂げるという覚悟だ。
(……海の男を支える人か)
きっとこれまでも似たようなことはあったのかもしれない。
それが海に生きるということだ。
フローラとエミリアも礼をして、会議室から退出しようとする……。
が、ロダンは残ってクオリッサと継続して打ち合わせをするそうだ。
(……石板の件かな)
クオリッサがどこまで聞いているのか、それはわからない。
不慮の事故だから、聞いていない可能性もある……。
それにイヴァン自身も心配だった。
まさか、こんなことになるとは。
顔が曇るエミリアの肩にフローラが優しく手を置く。
「気にするな、っていうのは無理な話だろうけど……抱え込みすぎないようにね」
「……はい」
エミリアとフローラはブラックパール船舶の事務所から出て、そのまま港の埠頭に向かう。
すでに第2弾の解体すべき船体が引き上げられている最中なのだ。
作業はあくまで継続。
ただ、王立守護騎士団も人員を配置し、さらなる警戒態勢を構築したうえで――というのが結論だ。
埠頭の風がどこか湿っぽく感じる。
遠く、海の向こうで雨でも降っているのだろうか。
埠頭ではすでにブラックパール船舶の従業員が作業していた。
臨時に設置されたクレーンが定位置に残骸を持ってきている。
海水をしたたらせながら、巨大な鉄塊が動く。
「もうちょい手前、手前だー!」
「あいよー!」
ルーン魔術のクレーンはぱっと見、滑車と紐の組み合わせ……。
だが、魔術的強化によって何十トンもの荷重に耐えられる。
「いつもの位置に来てますね……」
何日もエミリアとセリスが作業した、その場所に鉄塊が置かれようとしていた。
今回の船体のサイズは確かに、前のものよりも小さい。
体積にしてざっと6、7割程度だろうか。
「ブラックパールの皆さんは、士気をいささかも落としていないようね」
たなびく風にフローラの赤毛が揺られる。
言われて、エミリアははっとした。
彼らの顔には絶望めいたものは浮かんでいない。
過度に憂うことなく、必死に仕事へ取り組んでいる。
「……ですね。ここの方々にやる気で負けるわけにはいきません」
「その意気よ。あなたならきっとやり遂げられるわ」
そうだ、これはもう単なる仕事ではない。
ロダンの母が遺したものであり、イヴァンが執念をかけた事業なのだ。
エミリアは居ても立ってもいられなくなった。
「少し、今からでも作業をしてきますね」
「無理はしないでね。わたくしはギルドに戻って、書類をまとめるわ」
「はい……! お願いいたします!」
フローラが去って、エミリアは数時間ほど作業を重ねた。
セリスには遅くなるかもと言っていて、良かった……。
まず最初に全体を把握して――ルーンを見る。
ルーンについては最初の残骸とそう変わらない。
構造的には船体前面の部分だそうで、保護のルーンが気持ち多いくらいか。
これならセリスと一緒に作業すれば2日程度で終わるはずだ。
そしてもうひとつの懸念。
(ロダンのお母様が刻んだルーンも、この残骸にはなし)
ルーンのメッセージがあれだけとは限らない。
まさか、ないとは思うが。
だけど世の中に絶対はないのだ。
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