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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-2 残されたモノ

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78.レッサムとマルテ

レッサムとマルテについて、です。

 東の港の丘を歩きながら、イヴァンとレッサムは縦に(つら)なって歩いていた。

 観光客がまばらな公園をふたりで歩く。


 レッサムが先を行き、イヴァンが後についていた。


「今回の件、本当に感謝しております。我が社の悲願達成にご尽力頂いたこと、厚く御礼申し上げます」

「いや、こちらこそ。貴社の事業に貢献できてなによりだ」


 レッサムはそっけなく答えた。

 濃い緑の瞳が細まり、ふたりの横に広がる海に向けられる。


 イセルナーレの海は忌々しいほどに輝いていた。


「だが、どういうことだ? なぜ私のチームを排除して作業を進める?」

「……排除など、とんでもございません」

「いいや、貴君はイセルナーレ魔術ギルドにすべてを一任した。しかも王立守護騎士団にまで渡りをつけて……」


 レッサムは指折り数えて、イヴァンを詰問した。


墓堀人(はかほりにん)の意向を無視するつもりか」


 イヴァンの歩みがほんのわずか、止まる。

 だが、それは一瞬のことだった。


「まったく、そのようなつもりは」

「白々しい……貴君がそのような態度なら、こちらにも考えがある」


 この会談にレッサムは期待していなかった。

 ただの確認行為だ。


 結局、力のない者は何も守れない……。


 もうレッサムの中で答えは出ていた。

 嘘、偽り、裏切り……人生のすべては、結局はこれらからしか成り立っていないのだから。





 果たして、どれほどの代償があれば死は報われたと言えるのか。


 ――レッサムは考える。


 妹マルテの死は、どのような意味があったのか?


 ――レッサムは憎悪する。


 18年前、東の港の海は荒れていた。

 猛暑が蒸気を生み、その年は嵐が多かったのだ。


 港に近い、こじんまりとした一軒家。

 レッサムは少しやつれたマルテと相対していた。


 マルテは中性的な美しさを備えた、レッサム自慢の妹だった。


 マルテの色素の薄い金髪は絹を思わせ、緑の瞳には確かな知性と意志が宿っていた。

 細身だが筋骨はしっかりとしており、顔立ちに()して見る者に力強い印象を与える。


 両親が早くに死んだレッサム、マルテ兄妹はふたりで生きていた。

 10歳以上も違ったレッサムとマルテだが、その結びつきは非常に強い。


 魔術師として研鑽を積み、年代は違えど同じ海軍に入ったのだ。

 レッサムはマルテを自分の子どものように思っていた……。


 妹に向かい、レッサムはこれまでも繰り返した言葉をあえて重ねる。


「お前はカーリックに利用されているだけだ……!」

「兄さん、私は……」


 マルテはひとりの子を産み落としていた。


 澄みきった海色の瞳を持つ銀髪の男の子。

 すでに恐るべき魔力を持った、ロダンである。


 ふたりから離れたベッドで休む、3歳のロダンをレッサムが睨みつけた。


「あの門閥貴族の権化、カーリックがお前を認めることなんてありえない!」

「……でも彼は約束してくれた。ロダンを嫡子にするって」

「それでお前は? あの男には侯爵家からの正室がいるんだぞ」


 彼には理解できなかった。

 優秀なルーン魔術師から海軍に所属し、士官に上り詰めた妹が。

 美しさと強さを併せ持った妹が。


 なぜカーリックの言いなりになって、妾などという地位に甘んじなければならないのか?


 レッサムがそう説いても、マルテは首を振るばかりだった。


 激しい雨が窓を打ち鳴らす。

 苛立ちが排水溝の激流に募っていく。


「私は……別にいい。今のままで」

「ロダンを手放したら、二度と会えないぞ。そうなってもか」

「…………」


 マルテの視線に初めて迷いが見えた。


 ロダンを嫡子にするというカーリック家の申し出。

 妹のマルテはその意味と帰結を理解していない。


 あるいは理解して目を背けている。

 最愛の妹の不幸を、レッサムは見過ごしたくなかった。


「戦うんだ、マルテ。奴らの言いなりになるな」

「でも……どうするの?」

「功績を示すんだ」

 

 レッサムは言い切った。

 カーリックの思惑をはねのけ、妹が幸福になるには……。


「海軍の秘密プロジェクトがある。ここで成果を出せば、爵位も夢じゃない」


 母と伯父の会話。

 ロダンはベッドの中からふたりの会話を聞いていた。


 何を話しているかはロダンにはわからない。

 ……でも、わかっていることがある。

 あの伯父は母を変えてしまう。


 『僕は何も望んでないのに……父さんなんていらない』

 『母さんがいれば、それでいいのに』


 でもロダンは言えなかった。

 何かを言うには、ロダンはあまりにも幼かった。

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