76.暗号
「そろそろ本題に入るか」
ロダンはレモネードの瓶を取り、エミリアのグラスに注ごうとした。
すすっとエミリアはそれに甘える。
残された『アルシャンテ諸島 月の交差する岩壁 ふたつの首』という暗号。
ロダンの母マルテは何を意図したのだろうか。
「まずアルシャンテ諸島はここからすぐ、船で数十分のところにある群島だ。人は住んでおらず、すべて無人島になる」
そこまでは地図帳やらでエミリアも確認していた。
面積としてはごくごく小さい。
「人が住んでいない理由は水源がないこと、切り立った崖の不便さが原因だな……。観光客はいるかもしれないが」
「じゃあ、ロダンのお母様が足を踏み入れた可能性はあるわけね?」
「小型船があれば容易に立ち入れただろう。ふたつの首、というのもおおよそわかった」
ロダンが胸元から折りたたまれた紙を取り出す。
それはアルシャンテ諸島の地図だった。
小さな島が十数個、放射状に広がっている。
どの島が特別に大きいということはない。
どれもが大体似たり寄ったりの面積だった。
ロダンのしなやかな指が地図のある地点を指差す。
……ちょこんとふたつの小さな島がある。
「地図ではわかりにくいが、ここにあるふたつの島。ここはほぼ岩壁といっていい。ふたつの首、というのはここだろう」
「ふむふむ……」
正直、エミリアにはその辺はわからない。
謎解きはロダンに任せるしかないのが現状だった。
「最後の一節はそうだとして『月の交差する岩壁』というのは?」
「……わからない。あとは現地を見てみるしかないな」
ロダンは率直に不足を認めた。
15年前のメッセージ……どのような意図があるのか、想像もつかない。
「いずれにしろ、確認しに行くのは夜だ。月が関係するらしいからな」
その点はエミリアも同意する。
昼間に行っても空振りに終わる可能性が高い。
……にしても、ならどうして昼間に呼んだのか。
ロダンは猪突猛進なところと慎重なところが両極端だ。
(私が東の港にちゃんと来られるか、心配だったのね)
今日の集まりは集合場所の確認ということだ。
それがわからないエミリアではなかった。
「私はいつでも大丈夫よ」
「助かる。では、明日の夜はどうだ?」
「問題ないわ」
ぱぱっと段取りを済ませるエミリアとロダン。
アルシャンテ諸島に行くのは明日の夜と決まった。
と、そこで解散の流れになったのだが……。
エミリアはふとロダンが合流前に口走ったことが気になった。
「出会いを求めるなら、あちらの浜がいい――ってどこから出たフレーズなの?」
「それか……」
ロダンらしからぬ言葉だったので、ちょっと気になったのだ。
いや、別に他意はないのだが。
まったく、これっぽっちも。
むしろロダンの年齢では知っていたほうが健全でさえある。
「精霊ペンギンが鉄道をふさいだ時、俺の隣にいた金髪の男を覚えているか?」
「ん? あの副官っぽい人?」
制服の着こなし、遠目ではあるがロダンへの態度。
彼はそれなりの立場の人間だとエミリアは推測していた。
「そう、テリーと言うんだが。彼は常に結婚を考えていて、ふたりでいるとたまにそんな情報を俺に伝えてくる」
「そ、そうなんだ……」
「俺は正直、どうでもいいんだが……必死なあいつの言葉を遮るのも悪くてな。記憶力がいいのも困りものだ。どうでもいい情報を忘れることができない」
はぁ……というロダンの顔が面白い。
昔の彼なら、興味のない話題は無視しただろう。
留学時代とは全然違う苦労が今の彼にあるようだ。
「でも役に立ったとも言えるんじゃない……?」
「あれが? まぁ、あの女性陣にいい出逢いがあれば、そうだろうな……」
俺には関係ない、という雰囲気がありありと出ている。
異性にあまり興味がないのは相変わらずらしい。
というところで話し合いが終わる。
開けたレモネードの瓶はまだ中身がかなり残っていたので、エミリアが持って帰ることにした。
炭酸は抜けるが、良しとしよう……。
次は明日の夜だ。
アルシャンテ諸島に何が待っているのだろうか?
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