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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-2 残されたモノ

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73.住まいの選び方

 シーフードのスパゲッティは何度も作っていた。

 具材を変えれば味わいもぐっと変わってくれるのが利点だ。


 イセルナーレならエビ、カニ、貝、イカ、タコ、魚……海鮮は豊富。

 ネタには困らない。


「フォード、おいしい?」

「うん! エビ、いいよね!」


 今日、スパゲッティに使ったエビは小さいが味が詰まってそうだった。

 もぐもぐもぐ……。うん、しっかりおいしい。


 ここから気分をさらに変えたくなったら卵だろうか。


「きゅい!」


 ちゅるるる……。

 ルルがスパゲッティをすする。


 さすがにペンギンにマナーを求める人はいない。

 ペンギンなルルは好きなだけ麺を吸い込んで欲しい。


 ちゅるるー……。


 セリスは気落ちしたままだが、しっかりとスパゲッティを食べていた。


「セリスさんも落ち込まないで。料理、私の教えられることは教えるから」

「い、いいんですか……?」

「手先は器用だし、すぐできるようになるわよ」


 料理の極意は基本動作の繰り返しだ。

 アレンジなんかしなくていい。


 まずは食材に慣れること、焼きや煮炊きを身につけること。

 それさえできればまず無難に料理できる。


「ありがとうございます……何から何まで……」

「セリスさんは若いし、全然大丈夫よ」


 実際、セリスはよくやっている。

 16歳ちょっとで他国に来て、働いて、一人暮らし。


 前世でも今でも、そんな踏ん切りと選択はエミリアにはできない。


 エミリアにできることはサポートだけ。

 でもそこには手を抜きたくない。


 そうだ、セリスに聞いておきたいところがもうひとつあった。


「そういえば――家は決まりそう?」

「あ、はい……この建物でちょっと空いてて、そこに決めようかなと」


 確かに階下の部屋が空いていたような気がする。

 にしても同じ建物に来るとは……。


 フォードがサラダを飲み込むと、目を輝かせた。


「セリスお姉ちゃん、来てくれるの!?」

「うん。お仕事にもいいし、すぐ遊びに来れるからね……!」

「嬉しいなー!」


 何度もこくこくとフォードが頷いている。


「きゅきゅっい!」

「ルルちゃんも歓迎してくれるんだ、ありがとう!」

「きゅーいー!」

「……あなたはそれで大丈夫なの?」


 仕事関係の人と同じところに住んだ経験がない。

 社寮とかも現代日本にはあるけれど……。


 嫌というわけでは全然ないが、気を(つか)わせているなら申し訳ない。


「はいぃ……ええ、生活力を高めるならそのほうが……」


 セリスがエミリアをちらちらと見る。

 エミリアを頼りにする気なら、それは全然構わない。


 さっきの包丁を見るに、安心かもしれない……。

 

「私は大歓迎よ。下のほうの部屋だと……」

「1階と2階が空いてるそうで。荷物を運び入れるなら1階のような……」


 なぬ。そこでエミリアが身を乗り出した。

 

「2階のほうがいいわ……!」

「そうなんですか?」

「1階は防犯面の心配があるし、湿気や虫も……」


 意外とここは大事なところだ。

 庭があるなら1階もいいが、ここにはない。


 足腰の関係で上階は……というケースもある。

 だが、セリスはまだ16歳。ここも心配はない。


「むむっ……そうですね、荷物を運ぶのは1回だけですし」

「そうそう、継続的な理由のほうがいいわよ」


 あとは日当たりとか、浴室やトイレの見えづらいところの壁とか……。


 その他にも部屋選びのコツを伝え、セリスが熱心に聞く。

 賢い子なので理屈を聞けばきちんと理解するだろう。


 こうして、セリスが同じアパートの2階に引っ越してくることになった。

 彼女の生活基盤も整ってきているようで、エミリアとしても心が少し楽である。




 それから数日間、エミリアは船の解体作業をセリスと進めていった。

 潮風に晒されながら側面のルーンを丁寧に消して回る……。


 根気がいる作業だが、やるたびにスピードアップを実感する。

 その原因はエミリアの力だけではない。


(腕のいい職人さんが刻んだんだなぁ……)


 残骸になって歪んでも、ルーンの精妙さと画一性はきちんと残っていた。

 しっかりと丁寧な仕事がそうさせている。


(『優れたルーン魔術師は消す時のことも考える』)


 強固なルーンは何十年も残る。

 自分のルーンを消すのは自分とは限らない。


 残された、後輩のために。

 先人の技術と心配りのルーンが手に触れ、消えていく。


 細部までこだわった仕事のおかげで、慣れれば慣れるほど速くなれる。


 それをひとつずつ、しっかりと噛みしめて消していく。

 役割を終えたルーンを心の中で見送りながら。


(……お疲れ様でした)


 ルーンの残滓が淡い光になって、イセルナーレの海と空に散る。

 この瞬間は好きだけれど、やっぱりどこか物悲しい。


 セリスも順調に慣れていっている。


「こちら、作業終わりました」

「うん。じゃあ確認して切ってもらおうか」


 その日はグロッサムもイヴァンに立ち会い、ルーンの消去を見てもらった。


 グロッサムがまず残骸をぐるっと確認する。

 イヴァンもしっかりと屈んで細かく見ていた。


 漏れはない……はず。


2人(ふたり)とは思えない速度だな」

「ええ、これなら充分かと。次の残骸も引き上げ準備に入っていて、続けて作業してもらえそうですね」


 よし、まずは問題なさそうだ。

 この解体作業は解体作業できちんと進めよう。


(次もしっかりと……!!)


 ……そしてロダンのほうからも新しい連絡がきた。

 あの謎も進展があったみたいだ。

ちゅるるる…… (*´꒳`* っ )つ三


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― 新着の感想 ―
いつも楽しく読んでます! 防犯面より虫対策のほうが大事かもね!? もしも1階に住んでて、虫の大群に出会ったら悲鳴が下の階から聞こえてきたかもね(笑) 普通にお嬢様だし虫なんて見たことは少ないだろ…
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