7.ロイヤルブルー
ロダンに先導されて到着したのは、王都中心街にある高級レストラン『ロイヤルブルー』であった。
古風な門構えに品格ある調度品の数々にエミリアが気後れする。
(こ、ここは高いんじゃないの?)
イセルナーレの食事事情に詳しくないエミリアでさえ、そう判断できるレベルだ。
さすがに再会を祝しただけで一流店に案内されても……顔を強張らせるエミリアにロダンがささやく。
「この店は見た目より気安い。子どもの遊べる場所もある」
「そ、そうなの?」
「ああ、料理も食べやすい。フォード君もきっと気に入る」
頭の回るロダンがそう言うなら、信用しよう。
どうせイセルナーレに来たことのないエミリアでは他に良い店の心当たりもない。
……支配人らしき紳士の敬礼を受けながら、エミリアたちは席に着く。
通されたのは海が一望できる特等席だ。
(うーん、とっても良い席ね……)
偶然、案内されたにしてはいい席すぎる。
ロダンはよほどこの店に顔が利くのだろうか。
メニュー表が渡されたので考えても仕方のないことを打ち切る。
ランチメニューには確かに食べやすそうな料理が並んでいた。
「なにを食べようかな~」
「おすすめはシェフの焼き魚、貝のスープだ。あとは舟盛りか……」
「舟盛り? なぁに、それ?」
「フォード、気になるなら頼んでみる?」
「うん! ロダンさんのおすすめを食べてみる!」
フォードは即断のところがある。
対するエミリアは何を食べようか少し迷ったが……ロダンが熱心にメニューを読んでいた。
「エミリアはタラのリゾット、エビのスープなんかどうだ? このスープはエビがすり身で入っているから、胃に負担がない」
「では、それで」
ロダンに任せてしまえるのを楽に感じつつ、頷く。
他にいくつかのサイドメニューを頼み、少しすると料理が続々とやってきた。
並べられた料理の中でフォードが気に入ったのはシェフの焼き魚だった。
様々な種類の焼き魚がちょっとずつあるので食べ比べができるのだ。
もぐもぐとフォードがマグロの頬肉を味わう。
「初めて食べたかも、こんな味がするんだね……うん、とってもおいしいっ!」
「このシェフの焼き魚は日によって焼く魚が違うからな。別の日にはまた別のうまさがある」
「いいなぁ、また来たくなるね!」
魚料理に慣れてないはずのフォードだが、どれもおいしそうに味わっている。
ほっ……ロダンの見立てはうまくハマったようだ。
エミリアの食べるタラのリゾットも塩とトマトが効きすぎないよう、だが旨味は芳醇にできている。
優しい、胃を労る味に感謝せざるを得ない。
やはりどうも胃腸が弱り、やせ細っていたらしい。
(……これもあの結婚生活のせいかしら)
前世の記憶の断片が戻らなかったら、どうなっていたのだろう。
憂鬱の中で本格的に体調を崩して、倒れていたのか。フォードを残して……ぞっとする話だった。
それを回避するためにも、しっかりと食べないと……!
食事は何事もなく進み、大方の皿が空になる。ロダンもしっかりと食べ終わっていた。
そこでウェイターがなにやら本を持ってくる。
「どうぞ、イセルナーレの魚類図鑑でございます」
ウェイターの手にしていたのは、子ども向けの魚類図鑑だった。
フォードの大好物だ。
いつの間にそんなのを頼んだのか。
「フォード君、図鑑は好きかい?」
「もちろん! すごーい、読んでいいの!?」
図鑑を不思議に思わないロダンにエミリアが察する。
どうやら彼が用意させたようだ。
さらにテーブルのすぐ近くにはフォード用の小さな席も用意されていた。
着席するときにはなかった、いかにもフォード向きの席だ。
大きな声で話さなければフォードに聞こえないほどには遠く、エミリアの視界から外れるほどではない近さである。
ロダンはエミリアと話したがっている。
そう、エミリアは正確に判断した。
(ここはロダンに乗ろう……全部ではないにしても、少しは事情を話さなきゃ)
多分、ロダンはエミリアとフォードがイセルナーレに来ていることを不思議に思っていることだろう。普通ならあり得ないからだ。
ここまで世話になったのだから、できる説明はするべき……。
それが最低限の礼儀だろう。
エミリアは喉を整えると図鑑を持って喜ぶフォードに新しく用意された席を示した。
「ねぇ、あそこの席でゆっくり読んできたら?」
「あの席を使ってもいいの?」
ウェイターが優雅に頭を下げる。
すでに店とロダンとで話はまとまっていた。
「どうぞ、ご満足されるまで」
「ありがとう! じゃあ読んでくるね!」
フォードは図鑑を抱え、席へ向かう。そこからだとちょうど外に面して、雄大な海を視界にとらえながら本を読むことができた。
図鑑をめくり、フォードが読書に集中する。
それをしっかり確認してから、ロダンが口を開いた。
投げかけられた質問はエミリアの予想されたものだった。
「……イセルナーレにふたりで来たのは、どういった用だ?」
「どこから話せばいいのかな」
どこから話してもロダンの理解力なら大差ない気がする。
学院時代、ロダンは口下手なエミリアのことをどこからでも理解してくれた。
それは今も変わらないと信じよう。
エミリアはゆっくりと昨日の夜、離縁を切り出されたところから話し始めた。
【お願い】
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、
『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!
皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!
何卒、よろしくお願いいたします!