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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-1 沈没船ブラックパール号

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59.違和感

 顔を寄せて声をひそめるフローラにエミリアもつられる。


「ど、どんなことでしょうか?」

「……ふたりともお昼はもう食べたの?」

「まだですけれど」

「俺もこれからだ」

「じゃあ、ちょっと外で話しましょう」


 工房には弁当を持ち込んで食べている職人もいる。

 どうやらここで話すのはマズいらしい。


 フローラについていき、工房近くにある個室付きレストランへ移動する。

 店名は「フィッシュ・ヴォードン」、ギルド地区の東に位置している老舗のレストランだ。


 壁はシックな灰色でイセルナーレのレストランには珍しい。


 フローラを先頭に訪れると、従業員が最敬礼で奥の個室へ案内してくれる。

 6人ほどが座れる、高級感のある個室だ。


 壁には夜の近い夕焼けのイセルナーレの絵。

 個室もゆったりと温かみのある灰色の壁が基調になっている。


(グロッサムさんもよく来ているのかな?)


 エミリアが疑問を抱いたタイミングでフローラが微笑む。


「ここはよく使うのよ。ギルドの中でも出来ない、そういう話をするときにね」

「なるほど……良さそうですものね」


 歩いてきた雰囲気からすると、個室の壁も厚そうだ。

 というより、ルーンが刻まれているような……。


 微弱な魔力を壁から感じる。


「消音のルーンを入れてある。ウチの仕事でな」

「じゃあ、なおさら安心です」


 席に着いて料理を頼む。

 ここはカニ料理専門というわけではなく、魚料理メインだ。


「ふぅーむ……」


 とりあえず話の前に何か食べよう……。

 エミリアは迷った末、白身魚の東洋風油焼きを頼んだ。


 イセルナーレは海の国で交易も盛んだ。

 東西南北の料理がないことも――ないはず。


(もしかしたら中華や和食に近い料理が出てくるかもだし……)


 注文を取りに来たウェイトレスが去ってから、フローラがやおら口を開く。


「で、さっきの話だけど……今日、イヴァンさんへ会いに港へ行ってきたのよね」


 用件はもちろん契約関係の詰め。

 このイセルナーレでは口約束で大きな仕事が動くことはない。

 必ず契約と書類が必要になる。


「で、契約関係は問題なかったんだけど……」

「契約が大丈夫ならいいじゃねぇか」

「……普通はね。先方の事務所も港にあったから、行きと帰りに例の沈没船の残骸を見に行って……妙な気がするわ」


 フローラが語るには、ブラックパール船舶の人間には気づかれないよう、残骸を遠目から見に行ったのだとか。

 そうしたら、例の残骸を数人の人間が警備していたという。


 確かにエミリアが行った時も、船の残骸の周りには他に数人がいた。

 

「でも、それが何か変でしょうか? 会社の資産なわけで……」

「解体が決まって、あの錆まみれの船がか?」

「……それはそうですね。では、何か調べてるとか」

「いいえ、そんな気配はなかったわね。全員、船の残骸に背を向けていたから」

「うーん……念には念を入れて警備しているとしか」


 エミリアの頭ではそれ以上、思い浮かばない。

 そもそも前世を含めて、沈没船の一部をじかに見たのも初めてだ。


「お待たせいたしました~」


 陽気なウェイトレスが頼んだメニューを持ってくる。


 エミリアの前に並べられたのは、白身魚に濃厚なソースをかけ、スパイスと油で焼き上げた一品だ。思ったよりもかなり大きい。


 だが、期待通りではある。

 名前から受けた印象通り、どことなくアジアンテイストな料理だ。


 フローラはシーフードグラタンとサラダ、グロッサムは白身魚のスパゲッティを頼んでいた。


「エミリアさん、通な料理を選ぶのね」

「ちょっと色々食べてみようと思いまして……」


 ナイフとフォークで優雅に魚を切り分ける。

 外の皮は小麦粉でぱりっと、中はふっくら。身にソースを絡め、口に運ぶ。


 あっさりとした魚に刺激的な香辛料のソース、油の旨味。

 これまでのイセルナーレの料理とは明らかに違う。


 東洋風の名前は伊達ではない。

 油淋鶏(ユーリンチー)ならぬ油淋魚(ユーリンユイ)だ。


(……うん! いい感じ……!!)


 ちょっとした幸せな気分になる。

 これはフォードも食べられるかもしれない。


 各々が食事に手をつけ、話題はまたブラックパールへと戻った。

 グロッサムがスパゲッティを飲み込み、首を傾げる。

 

「確かに妙だな。引き上げた沈没船の解体は何度かやったが、そんな警備するほどのモノじゃねぇぞ」

「資産的な品物があるにしても、別にしておくはずよ。置きっぱなしにするはずはないわ」


 ……沈没船に財宝。

 ありがちと言えばありがちな話だ。


「ブラックパールは軍船だろ。金目の物を積んでるとは思えねぇがな……」

「軍も除籍しているのですよね?」


 エミリアの確認にフローラが首肯する。


「ええ、海軍にもこちらから書類は出すけれど……そのはずよ。もう沈没から15年経過しているし、沈んだ原因も嵐で明白なのよね」


 ……ロンダート男爵は何か隠しているのだろうか。

 わからない。問い詰める材料があるわけではないのだ。


 今、あるのは違和感だけ。

 長年の経験を持つフローラとグロッサムだけが普通ではないと、わずかに感じている。


(あの船はロダンのお母様が乗っておられたというけれど……)


 それ以上の何かがあの船にあるのだろうか?


 この時、ブラックパールの残骸がイセルナーレを揺るがす秘密を握っているとは、エミリアは想像もしなかった。

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― 新着の感想 ―
蒸した白身魚に熱した油をかけて鱗ぱりぱりにしてそうなお魚…ルルちゃんも満足そうな一品ですね(カロリー!) あっさりと剣のルーン解体で6万貰ってますけど、普通は隔日作業での実労働三日とすると1日あたり…
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