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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
1-5 心機一転

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50.新しい依頼

「はいっ、どうぞお任せください!」


 セリスがはにかみながら頷く。

 ……儚げな外見よりも、かなりしっかりしているかもしれない。


 一応、この件をフォードに聞いてみると、彼は神妙な顔つきになった。


「セリスお姉ちゃんは大変だもんね……」

「きゅうー……」


 4歳児にセリスは同情されていた。

 ま、まぁ……嫌われているわけではない。


 フォードとルルについて、エミリアは引継ぎをして後を任せる。

 これで心置きなく魔術ギルドへ行ける――と、エミリアは大事なことを思い出した。


 これだけはお願いしておかないと。

 玄関前にこそっとセリスを呼び寄せ、そっと伝える。

 

「私がいない間、部屋の中でルルをお散歩させてくれないかしら」


 



 フォードとルルを預けたエミリアは家を出て魔術ギルドへ向かう。


 8月に入り、熱気はますます盛んだ。

 街中では半裸、水着の人間もちらほら見る。

 

 ウォリスでは考えられないが、イセルナーレの王都ではありうることなのだ。

 半裸の若者が屋台を開き、客を呼び込む。

 

「焼きイカ串、焼きイカ串だよー」

 

 香ばしいチーズと魚醤の香り。

 強烈な誘惑を感じるが、自制する。

 

 魔術ギルドに到着すると、フローラからセリスの話をされた。

 猫科を思わせる上機嫌な笑みを見るに、セリスはフローラの期待にきちんと応えていたようだ。


「セリスさん、とても優秀ね。期待できるわ」

「そうですか……安心しました」

「筆記とルーン魔術の刻印が特に優秀ね。消去は刻印ほどではなさそうだったけれど……でも年齢を考えれば充分ではあるわ」


 性格的にセリスは結構(げき)しやすい、かもしれない。

 人前で叫んだり、泣いたり。感情表現が豊かだ。


 だとするとルーンの消去はそこまで、ということはある。

 もっとも、年齢的に考えれば天才なのは疑いようがないだろうが。


「あとは大丈夫そうでしたか?」

「そうね、昨日のことを思えば気丈に振る舞ってるわ。ぱっと見は心配なさそうだけど、どうかしら」


 エミリアはフローラにさきほど、セリスが来た話をした。

 フォードとルルを預かってもらっているということもセットで。


 フローラがふわっと髪をかき上げ、瞳の力を和らげる。


「一人でいるよりは、そのほうがいいかもね。色々と考え込むのは良くない」

「……ですよね」


 とりあえずは様子見である。


 そして工房に向かいながら、エミリアは仕事の話を振った。

 ルーン消去の大型依頼、どんなものなのだろう。


「……依頼は船なの」

「船、ですか?」


 フローラが申し訳なさそうに目を伏せる。


「40年前に製造された船ね。元は軍船だったようで、ルーンもかなり強固なのよ」


 鉄道だけでなく、この世界の船にもルーンは使われている。

 ただ、海の魔力濃度は大気よりもずっと濃い。


 そのためルーンの劣化が陸よりも早く、使われるケースは多くない。

 軍船だったのなら納得だが……。


「だとするとかなりの大作業になりそうですね」

「ええ、とりあえず民間企業のほうで出来る限りは解体してから、という話ではあるけれど……かなりの高難度作業ね」


 工房に到着すると、相変わらず職人が忙しそうにしていた。

 大口の剣にルーンを入れる作業がそこかしこで行われている。


 エミリアの姿を認めると、グロッサムが作業の手を止めて顔を上げた。

 白髭のいかめしい顔には働く人を安心させる力がある。


「おう、来たか」

「……ルーンの刻印をしていたのでは?」


 エミリアが軽く覗き込む。


 切断のルーンを刻む作業が思い切り半端であるような。


 ルーンを刻む場合、一気にやり遂げるのが普通だ。

 手を止めて再開するなんて、エミリアには無理だった。


 グロッサムが額の汗を手拭いで落とす。


「心配するな。俺くらいになると、どこからでもちゃんとできる」

「さすがです、グロッサムさん」


 エミリアには到底できないやり方をしれっと言う。

 

「それよりもよ、話を聞いたか?」

「今、その話をしていたところよ――船だってね」

「軍船だっていうなら、きっととんでもねぇ代物だ。……どんだけ強いルーンを消さないといけないんだ?」

「そこがまだ不明確みたい。当然、最小限になるよう依頼主が取り計らうでしょうけど」

 

 フローラがちらりとエミリアを見る。

 心なしか、声が少し小さくなっていた。


「依頼主は船会社なの。船会社は船会社でルーン魔術師を抱えているはずだけどね。多分、手に負えないからこちらに回してきたのよ」

「ウチは腕は確かだが、安くねぇからな」


 グロッサムがいくぶんか、胸を張る。


 自前でルーン魔術師を抱えているなら、そちらでやったほうがいい。


 イセルナーレ魔術ギルドはこの国で最高峰だ。

 仕事の水準が高いということは報酬も取るということでもある。


 だが、そこに構っていられない依頼なのかもしれない。


「ま、俺たちでもモノを見てみないとな」

「そうですね、まずは現物を見ないと」

「やってくれるのね?」


 フローラの確認にエミリアはしっかりと頷く。

 仕事から逃げるという選択肢はエミリアにはない。


「もちろんです……!」

「良かった、助かるわ。じゃあ、早速行きましょう」


 ん? 行きましょう……?

 工房で仕事をするんじゃないのだろうか。


「……どこかへ行くのですか?」


 エミリアが疑問を呈すと、フローラとグロッサムが顔を見合わせる。

 ややあって、グロッサムが口を開いた。


「そりゃあ港だよ。船なんだから、工房には入らねぇよな」

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― 新着の感想 ―
きゅっきゅっきゅ~(まらそんちう) ルーン技術がすごいので廃船処理のお金が掛かりすぎて廃船時期なのに廃船できない船がありそうだなと。海のそこに沈めるのが一番安上がりにならないように造船時点で廃船の費…
軍艦のルーン消去…そんな物もあるんだ… リアルでも軍艦とか戦車とかは解体が大変だと聞きますね。 壊れないように、壊されないように頑丈に作るのですから、当然ですが。
丸いサイズ感がわかって、ルルが、娘の好きだったこうぺんちゃん(キャラ)で脳内再生されてしまいます。
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