41.家族との
その日、夜のご飯のメインはエミリアが作った海鮮シチューだった。
イセルナーレのガイドブックを見ながら、エビと野菜をたくさん入れて健康にも良い。
あとは買ってきた惣菜をいくつか……。
パン、魚の香草チーズ焼き、パンナコッタが並ぶ。
(ウォリスより惣菜が充実しているのも嬉しいわよね……!)
大都市で商業地区が発達しているからだろう。
イートインだけでなく、お持ち帰りの惣菜も申し分ない。
「んんー、おいしいー!」
柔らかくなったシチューのブロッコリーをフォードがもぐもぐしている。
……ちょっと苦みがあるほうがやっぱり好きなのかも。
「ルルもいっぱい食べてねー?」
「きゅー!」
フォードがスプーンでシチューをすくい、ルルに食べさせる。
ルルはそれを大喜びで頬張り、飲み込む。
可愛い……。
でもルルは大きくなりませんように、とエミリアは願った。
法規制にひっかかっちゃうから……。
非合法ペンギンになっちゃうから……。
家族で夜ご飯を食べたら読書タイムだ。
フォードにとってまだ難しい――イセルナーレの絵本を読み聞かせる。
絵本の題名は『銛の勇者ヘルスドットの冒険』だ。
フォードとルルがベッドで横になっている。
その隣でエミリアが絵本を広げて絵本を読み上げていた。
「ヘルスドットは言いました。どんなに海が荒れていても、俺は進む。ヘルスドットはお供のカニ、エビと一緒に小さな船を作りました。さぁ、この船でいざ光の剣の眠る、聖なる島へ!」
「どきどき……」
「きゅーい……」
「悪の魔術師モーガンは杖を振って、言いました。そうはさせんぞ、あの剣は俺のものだ。モーガンの魔術で海はごうごうと鳴って、激しい波が打ち寄せます……」
「うわー、どうなっちゃうんだろう!」
「きゅっきゅい!」
楽しみに聞くふたり。
でも、もう結構な夜になっていた。
寝る時間は守ってもらいたい、となると……。
「――今日はここまで。続きは明日ね」
「えあ~……だって」
「……きゅい」
「残念だけどしょうがないね」
「きゅっきゅい」
ルルがぽむぽむとフォードの胸を撫でる。
フォードが頷き、微笑みかけた。
エミリアが部屋のルーンの灯りを最小限にする。
「お母さん、おやすみなさい」
「おやすみなさい、フォード」
「きゅいー」
布団を被り、少しすると――フォードとルルの寝息が聞こえる。
「……ふぅ」
エミリアは書斎へ移り、絵本を本棚に戻す。
イセルナーレの絵本は冒険譚が多い。しかも貴族が主人公ではない。
この銛の勇者ヘルスドットも元は漁師だったのが精霊の導きで――という物語だ。
(ウォリスの絵本だと、ほぼ貴族が主人公なのよね……)
この辺りも特権階級の意識に繋がっているのかも。
幼児期からの教育も捨て置けないものがある。
そんなことを考えてから、エミリアは革袋のケースから書類を取り出した。
決戦の日に向けて、漏れがないようにしないと。
でもそれはそれとして、仕事もある。明日は魔術ギルドに行かなければ。
あとはフローラさんにルルも紹介しないと……。
合法ペンギンなのがわかったので、理解がありそうな人の前になら出しても問題はないだろう。
魔術師ならルルの力はよくわかるはずだ。
(あとは次の仕事、と……)
鉄道レールのルーン消去は終わり、エミリアは別のルーン消去を担当していた。
対象は他国のルーン武具、2個騎士団分くらいだ。
これも早急にやったほうがいいとか。
レールほどではないが、これも20歳そこそこの報酬としてはかなり旨い。
(ルーンを消し去るのって、本当に大変なんだなぁ……)
しかし、だからこそお金にはなる。
気合いを入れて稼がなければ。
書斎で本を読み、書類を頭に入れて――フォードの元へ。
フォードの眠りはいつも深くて、よく眠っていた。
起こさないようにエミリアもそっとベッドに入る。
「んんー、ルルー……」
「ふきゅー……」
ふかふかのルルを抱いて、フォードは夢の中でも楽しそうだった。
こうして数日が経過し、あっという間に決戦の日が訪れる。
紺と黒の公爵令嬢らしい服を身にまとい、エミリアの準備は整っていた。
フォードとルルはフローラさんが預かってくれるという――ありがたい話だ。
魔術ギルドの事務所でフォード、ルルと別れる。
「じゃあ、ちょっと行ってくるからね」
「はーい!」
「きゅっきゅー」
さっき話して、フローラにはルルを紹介しておいた。
やはり合法らしいので、特に問題はなし。
精霊はもっと威厳ある存在かと思うけど、やはりこのサイズは別らしい。
むしろマスコット的な……。
まぁ、ルルは人懐っこいしね。
事情を知るフローラは真剣な表情でエミリアを送り出す。
「頑張ってきてね」
そっとフローラにハグをされる。
このイセルナーレではロダンの次にお世話になった人だ。
胸が熱くなるのを感じ、頷く。
「いってきます……!」
泣いても笑っても、あともう少し。
オルドン公爵はすでにイセルナーレの宮殿にいるはずなのだから。
きゅむ……(満腹の顔
(*´꒳`* っ )つ三
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