353.ふたりだけの年末
ルルからバイバイされ、エレベーターが閉じて。
キャレシーとガネットがようやく顔を見合わせる。
「今のって……」
「うむ、先生とその家族とカーリック伯爵だったな」
「だよね」
見間違いではなかった。
上の階からやってきて、華麗に去っていった……。
「まぁ、こんな偶然もある」
「すごい冷静じゃない?」
「貴族社会には色々とあるんだ。見たことを忘れるのも大切と言える」
ガネットの重々しい言葉にキャレシーは心の中で唸る。
確かに、予期せぬバッティングをすることもあるのかもしれない。
それをすぱーんと忘れるのも重要か。
そこまで考えて、自分の酔いが吹っ飛んでいることにキャレシーは気が付いた。
(ペンギンのふにふにバイバイで目が覚めたわ)
で、そうするとかなり恥ずかしい体勢にキャレシーはなっている。
なにせガネットに寄りかかり、体重を半ば預けていたのだから。
「…………」
恥ずかしい!
慣れない酒と食べ物で酔いすぎでしょ!
キャレシーは赤くなった顔にさらに血が集まるのを自覚して、すすっとガネットから離れた。
「……大丈夫か?」
「うん、もう。少し良くなった」
ガネットはキャレシーが離れたことにも気遣い以外の特段の感情を見せなかった。
それが良くもあり、不安でもある。
キャレシーも大学生だ。顔も身体もそこそこの素材であるとは思っている(ただしたまに寝癖のまま通学する)
男を近寄らせないオーラは出てるかもだが、それでも女性的な魅力は……うーん、多分あるはずだ。
(そこに疑問を抱いたら終わりな気もするけど……)
にしてもガネットからはそーいう視線や態度を一切感じない。
非常に心地良い反面、フラットすぎてちょっとどうかとも思う。
今日も本当に高いところで食べただけで、何ひとつ進展していないような気さえする。
エレベーターが戻ってきて、ふたりして乗り込む。
今度は何事もなく……何度か途中階に停止して、地上階へと到着した。
本当にキャレシーは何も支払うことなく、塔を出る。
外は夜風が冷たいが、アルコールに火照った身体にはちょうどよい。
「今日は本当にありがと」
「こっちこそ。料理は口にあったか?」
「ええ、とっても美味しかった」
これは本音だった。
食べ慣れない東方料理だが、イセルナーレ風に改造されているのが随所に――記憶に残っている部分には出ている。
世界は広く、想像もつかない。
一体、どうしたら大豆のゼリーなんてものを作ろうと考えるのだろうか。
「なら、良かった」
ガネットがふふっと微笑む。
その顔には屈託がなく、今夜という食事を楽しめたことだけが浮かんでいた。
まぶしくて、胸がきゅーっと締め付けられる。
(――私は)
ガネットと結ばれれば、きっと苦労するだろう。生まれ育った環境が違いすぎるから。
でも同時に自分の知らない世界には刺激と新鮮さがあふれている。
それらに興味がないと言えば、嘘になる。
ガネットが見せてくれるものに、キャレシーは惹かれていた。惹かれ始めていた。
(でも今は、今は駄目なんだ)
今のままのキャレシーでは、ガネットの隣には立てない。
ガネットは多分、そんなことは気にしないだろうけれど。
彼は彼で貴族らしさとガサツさと寛容さでキャレシーを受け止めるだろう。
だけど、それじゃ納得できない。
前に進みたい。ガネットを追い越してやりたいから。
「また誘ってね」
「ああ、そうする。次は何にしようかな」
ガネットは当たり前のようにキャレシーを送ってくれる。
嬉しいと思いながらも、キャレシーの足取りはふらついてはいなかった。
やるべきことが少しだけ、見えた気がするから。
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