344.年末の出逢い
翌朝、エミリアの気分は悪かった。
過去のことは過去のこと。
でもどうにも切り離せないし、思い出すと憂鬱になる。
でもそんな時はルルとフォードが前向きな気分をくれる。
(そうよ、私にはふたりがいるんだから)
大学で採点作業を数度行い、教務課に提出すると年の瀬が間近に迫ってきた。
イセルナーレで過ごす初めての年末年始だ。
街もさすがに浮かれ、彩りが濃くなっている。
今日はそんな年末……にお出かけだ。ロダンと合流してレストランで食事をする。
エミリアはそこそこ着飾ってフォードと手を繋ぎ、イセルナーレの街を歩いていく。
「ここはやっぱり温かいんだね〜」
「きゅーい」
今日のルルはフォードの後ろ。フォードの背負う鞄にルルはすっぽりと収まっていた。
「きゅうん」
きょろきょろ。
ルルはふにふにと周囲を観察していた。
「ルルも気になるもの、ある?」
「きゅー……」
年末はやはり色々と限定商品や催し物がある。
金銭的な問題はないが、ルルのたぷみ的には……限度を設定しなければ。
「きゅっ」
ルルは我慢の表情を浮かべている……気がする。
ロダンとの食事会があるので、そこまではということだ。
エミリアたちが到着したのは、魔術師の区域にあるレストランだった。
イセルナーレ魔術ギルドから遠くないが、メインの通りからは少し外れている。
それは巨大な塔……というしかないような建造物であった。
「ほえー」
「きゅーん」
「高いわねぇ」
エミリアたちは揃って塔を見上げる。
塔の上層には大時計があって、時を刻んでいた。
「おっっきな時計〜」
「きゅうん〜」
鐘の音も大きいのかな?
と、ルルが疑問に思っているが多分そんなことはない。
魔術ギルドにいてもここの大時計の音は聞こえない。それにもし大きな音なら塔の中のレストランでうるさすぎる気がするのだ。
時間より少し前に到着したのだが、すぐにエミリアはロダンが後ろに来たのに気がついた。
「待たせてしまったか」
「いいえ、大丈夫よ。……!」
今日のロダンは白と青の騎士服で、金の後ろ飾りと勲章がついていた。
任務用の服よりもフォーマルだ。
すでに街を歩く人からロダンは注目されていた……。まぁ、かなり目立つけれども。
「行こう」
「ええ……あっ」
ロダンが腕を差し出してくる。
う、うおー。ナチュラルに。街中で……!
ますます周囲からの注目を集めている……気がする。
(ま、まぁ……今さらよね)
貴族社会ではパートナーが誰であるか、明確化される機会も多い。
舞踏会を経た今では、知る人は知っていることだ。
少し照れながらもエミリアはロダンの腕を取った。
やや冷たく感じるロダンの魔力がいつも以上に抑えられ、服の生地のせいか、温かく感じた。
片方の手はフォードと繋いでいるため、これで四人揃って横並びだ(ルルはフォードの鞄の中だけど)
ロダンに連れられ、塔の中に入る。
暗めの内装に深い青の照明がいくつも点のように光る。
壁は木に張り替えられて、魚型の照明の灯が揺らめく。
「おっ、おー……!」
「きゅいん〜!」
「海をイメージしたレストランだ」
「なるほど、凝ってるわね」
壁のデザインは船の壁だったか。
確かに帆船の頃のような趣がある。
ロダンに伴われ、顔パスで塔のエレベーターへと乗る。
「きゅいきゅい」
「うん、上はどうなんだろーねー」
ぐいーんとエレベーターが昇り、最上階へ。
そこは青みがかった薄闇に星と魚型が泳ぐ空間であった。
ガラス製のテーブルがきらめき、天井の光をわずかに反射していた。
柑橘系の落ち着く香気が漂い――なんと贅沢に最上階の席はひとつだけだった。
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