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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
4-2 ふたつの因縁

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343/364

343.親の教え

『思 考 す る な』


 エミリアは父と母からの言葉を思い出した。


『セリド公爵家に思考は必要ない。器なのだから』


 古い記憶の中、暗い広間でエミリアは両親を見上げていた。


 暖炉には火がなく、ドゥナガ山脈から吹き付ける冬風は身を切り裂くほど寒くて痛い。


 手が震え、寒さが身体の奥まで沁みてくる。


『どうしてこんなに、訓練しなきゃいけないの?』


 もう何時間も何時間も、ずっとずっとエミリアは夜遅くまで魔術の訓練をさせられていた。


 それに対して両親は簡潔に答えた。


『思考するな』


 冷たく見下され、エミリアは唇を噛む。


 分からない。

 なぜ、こんなにもやらなければならないのか。


 そんなエミリアの疑問に対して、考えるなは答えになっていないように思ったのだ。


 エミリアがきっと瞳を向けると、両親はかつかつとエミリアに近寄って、髪を掴んできた。


『反抗するな』

『……っ』


 ろくでもない記憶ね。

 あの頃はこんなことが当たり前だった。


 最初の頃、エミリアは両親に対して反抗して納得していなかった。


 それに対して――両親はエミリアを押さえつけていた。


『セリド家に思考は必要ない』


 父と母の手がエミリアの髪を掴んで持ち上げ、もう片方の手がエミリアの額に伸びる。


『器になれ』

『ぐっ、ううぅっ……!』


 強烈な魔力がエミリアの頭の中へ流れ込んでくる。


 魔力自体に致死性はないが、恐ろしいほど研ぎ澄まされた魔力に触れて無事なものはいない。


 漆黒、闇色――セリド家の背負う魔力がエミリアの頭を覆い、激しく振動させる。


 ――苦しい。


 魔力の奔流がエミリアを揺らす。


『あああっ!!』


 絶叫したエミリアはそのまま床に倒れ伏そうとして、できなかった。

 髪を掴まれていたから。


『これは苦痛ではない』

『うぅ、はぁ……っ!』

『魔力を感じろ。セリド家の漆黒の魔力を』


 エミリアが反抗心を抱かなくなるまでそうしたあと、両親はエミリアに言って聞かせるのだ。


() () () () ()


 と、再び言って聞かせるのだ。


 そこまで思い出して、エミリアはベッドの中に意識を引き戻した。

 

(とんでもない家だったわねー……。こんなことされてたんだった)


 前世の記憶が戻ってから色々なことがあり、実家のことは後回しだった。


 結局、思い出したところで何かが変わるわけもないのだが……。


 昔の出来事を思い出して、自分でもドン引きするだけだ。


(でも妙ね。なんであんな昔のことを振り返ろうと思ったんだっけ)


「きゅー」


 胸元にいるルルがフォードの黒髪を羽で愛でる。

 

「ふぅ〜ん……ふかふか〜」


 ルルに抱きつかれ、フォードはにまにましていた。


 今のフォードは幸せだと信じている。あのオルドン公爵家にいるよりも、今が良いと思っている。


(そして自分よりも――幸せになってほしい)


 エミリアは虚ろだった。

 それはセリド公爵家がそのように仕向けたからだ、と今ならわかる。


 頭に魔力を流され、言うことを聞かせられていたのだ。


(……待って)


 そこでエミリアははっとした。


 両親から魔力を流されて――エミリアはどう変わってしまったのか。


 そして今になって過去のことを思い出そうとしているのは、なぜなのか。


(あれはただの折檻じゃなかった……?)


「ふきゅきゅん……」

「ルル、くすぐったいよ〜」


 ルルがフォードの黒髪に頭を突っ込んでいた。


 そのふたりの上に、そっとエミリアは手を置く。


(まぁ、もうわからないことだけど……)


 ルルと繋がってから、過去のことを思い出せるようになったのかもしれない。


(あるいはそこに曽祖父ダイトとの関係があるのかもね)

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