343.親の教え
『思 考 す る な』
エミリアは父と母からの言葉を思い出した。
『セリド公爵家に思考は必要ない。器なのだから』
古い記憶の中、暗い広間でエミリアは両親を見上げていた。
暖炉には火がなく、ドゥナガ山脈から吹き付ける冬風は身を切り裂くほど寒くて痛い。
手が震え、寒さが身体の奥まで沁みてくる。
『どうしてこんなに、訓練しなきゃいけないの?』
もう何時間も何時間も、ずっとずっとエミリアは夜遅くまで魔術の訓練をさせられていた。
それに対して両親は簡潔に答えた。
『思考するな』
冷たく見下され、エミリアは唇を噛む。
分からない。
なぜ、こんなにもやらなければならないのか。
そんなエミリアの疑問に対して、考えるなは答えになっていないように思ったのだ。
エミリアがきっと瞳を向けると、両親はかつかつとエミリアに近寄って、髪を掴んできた。
『反抗するな』
『……っ』
ろくでもない記憶ね。
あの頃はこんなことが当たり前だった。
最初の頃、エミリアは両親に対して反抗して納得していなかった。
それに対して――両親はエミリアを押さえつけていた。
『セリド家に思考は必要ない』
父と母の手がエミリアの髪を掴んで持ち上げ、もう片方の手がエミリアの額に伸びる。
『器になれ』
『ぐっ、ううぅっ……!』
強烈な魔力がエミリアの頭の中へ流れ込んでくる。
魔力自体に致死性はないが、恐ろしいほど研ぎ澄まされた魔力に触れて無事なものはいない。
漆黒、闇色――セリド家の背負う魔力がエミリアの頭を覆い、激しく振動させる。
――苦しい。
魔力の奔流がエミリアを揺らす。
『あああっ!!』
絶叫したエミリアはそのまま床に倒れ伏そうとして、できなかった。
髪を掴まれていたから。
『これは苦痛ではない』
『うぅ、はぁ……っ!』
『魔力を感じろ。セリド家の漆黒の魔力を』
エミリアが反抗心を抱かなくなるまでそうしたあと、両親はエミリアに言って聞かせるのだ。
『思 考 す る な』
と、再び言って聞かせるのだ。
そこまで思い出して、エミリアはベッドの中に意識を引き戻した。
(とんでもない家だったわねー……。こんなことされてたんだった)
前世の記憶が戻ってから色々なことがあり、実家のことは後回しだった。
結局、思い出したところで何かが変わるわけもないのだが……。
昔の出来事を思い出して、自分でもドン引きするだけだ。
(でも妙ね。なんであんな昔のことを振り返ろうと思ったんだっけ)
「きゅー」
胸元にいるルルがフォードの黒髪を羽で愛でる。
「ふぅ〜ん……ふかふか〜」
ルルに抱きつかれ、フォードはにまにましていた。
今のフォードは幸せだと信じている。あのオルドン公爵家にいるよりも、今が良いと思っている。
(そして自分よりも――幸せになってほしい)
エミリアは虚ろだった。
それはセリド公爵家がそのように仕向けたからだ、と今ならわかる。
頭に魔力を流され、言うことを聞かせられていたのだ。
(……待って)
そこでエミリアははっとした。
両親から魔力を流されて――エミリアはどう変わってしまったのか。
そして今になって過去のことを思い出そうとしているのは、なぜなのか。
(あれはただの折檻じゃなかった……?)
「ふきゅきゅん……」
「ルル、くすぐったいよ〜」
ルルがフォードの黒髪に頭を突っ込んでいた。
そのふたりの上に、そっとエミリアは手を置く。
(まぁ、もうわからないことだけど……)
ルルと繋がってから、過去のことを思い出せるようになったのかもしれない。
(あるいはそこに曽祖父ダイトとの関係があるのかもね)
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