330.触れられて
エミリアがちらっと周囲を見る。
半個室のこの席は人目につかず、しかも店内に人も多くない。
エミリアは即断する。
(……大丈夫そう!)
これは肩揉み。大学の仕事をこなして、疲れた身体を癒すだけ。
「じゃあ、頼もうかしら」
「わかった」
ロダンは席を立って、エミリアの背後にすすっと移動する。
意外だ。
ロダンからこうした行為を申し出るなんて。それに、店内で?
いや、もしかするとイセルナーレではこの程度はどうということもないのかも……。
情熱的な面のあるイセルナーレでは、道端でハグなども珍しくない。
(それにまぁ、あの夜のダンスに比べたらね)
「強かったら言ってくれ」
「わかったわ」
背後からロダンの声を聞く。
少し妙な気分だ。
ロダンとは横に並ぶことや決闘で相対することはあっても、背後に立たれたことは多くない。
ロダンの手がエミリアの肩にそっと置かれる。
軽く、本当に軽く。
ロダンの手がエミリアの肩にかすかな力をかける。
ここから揉まれるのか。
……いや、ロダンの指は動いているのだが、力は強くなっていない。
動いてはいる。
ものすごく……弱い。
エミリアの体感では、キーボードにそっと触れる程度だ。
もしくはスマホのフリックよりちょっと強いくらい。
(ルルだってもっと強く揉むんだけど……?)
これは……もしかして。
エミリアはそっと後ろのロダンに声をかける。
「あのー……」
「うん?」
「もっと強くて、いいからね?」
「…………」
ロダンの手の動きが止まる。
「弱いか」
「うん」
「どの程度がいいのか、わからん。こんな細い肩なのに……」
ロダンは私の肩を心配しているようだ。
一応はフォードやルルと遊んだり、買い物袋で鍛えられている……のだが。
しかし、ふと思った。
ロダンは社交界に姿を見せない。
エミリア以外の女性も近づけない。
だから――エミリアの肩を揉むことが剣を振る、王族と仕事をすることよりも難しいのかも。
「大丈夫よ。本当にもっと強くても」
「……ふむ」
ロダンが頷いたような気配がした。
肩を揉む力が少しずつ強くなっていく……のだが、なんだろう。
(く、くすぐったい……!)
指の動きが繊細なせいか。
でも笑ったらいけない。
せっかくロダンが真剣に、こちらを癒そうとしてくれているのに……っ!
ぷるぷる震えながら、エミリアはロダンに肩を揉まれる。
数分、揉まれて……エミリアはロダンに軽く振り返った。
「も、もう大丈夫よ。ありがとう」
「うむ、ほぐれたのなら良かった」
ロダンが肩から手を外す。
そのまま彼も席に戻るかと思いきや――ロダンはそのままエミリアの黒髪を軽く持ち上げた。
大切なものに触れているかのように。
「綺麗だな」
「……!」
エミリアは自分の黒髪を大切に思っていた。
夜色にほど近い漆黒……今でも手入れは欠かさない。
その黒髪を手に取られて、褒められて……しかも背後から。
(正面からよりもずっと……っ)
恥ずかしくて嬉しい。
ロダンは無自覚にそんなことをやってくる。
本当に綺麗と思ってくれているんだ。
不器用なところもある彼だからこそ、その言葉には重みがある。
エミリアはテーブルに肘をつきながら、ロダンが愛おしそうに髪を触るのを受け入れていた。
(……でもやっぱり恥ずかしい、慣れない……)
顔も見れない。というか、背後からで良かったかもしれない。
頭が一気に過熱したところで、ロダンが手を離す。
もったいないような……でも公の場だとこれくらいで良かったのかも。
と、髪を整えるエミリアであった。
エミリア的にも意外なのでした。
(夜会で踊りまくったくせに)
◆
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