327.決着
熾烈な魔力の応酬。
魂にしても目にしても見てから反応するのでは、このレベルでは遅すぎる。
(相手の魔力のわずかな揺らぎから、行動を察知して封じ込める――)
静の感知を張り巡らせ、ひとつの攻撃動作も取りこぼさず捕捉。
動の魔力を発露して、一瞬たりとも間違えずに絶えず相手を迎撃する。
相反するふたつの技能。
それが神速の攻防として現れていた。
エミリアも解き放った闇の魔力を空中で鋭利に硬質化させる。
ロダンのそれが雹が降り注ぐものだとすれば、エミリアは漆黒の針であった。
(……数はロダンに劣ってしまうわね)
ロダンは空中で魔力を制御するのが上手い。
雪と氷のイメージで自らの魔力を鍛えているからか。
同じ魔力を注ぎ込んでもエミリアにはそこまでの速さ、数は用意できない。
なので……エミリアは質を重視した。
雹ほど多数ではなくても、針の鋭さで圧倒できればいい。
漆黒の針がロダンの氷と雪の魔力を貫通する。
「ほう……」
ロダンはさらに一手、打ってきた。
氷の魔力が漆黒の針にまとわりつき、凝固させる。
凍らせる――これもまたロダンだからこそできる魔力のイメージ、拡張であった。
超高度な魔力のやり取りをテリーは啞然と見ていた。
(なんちゅー魔力の応酬だよ……。俺なんて感覚で追いかけるだけでもツライのに)
輪になっている学生より、騎士団員のほうがエミリアたちに近い。
まばたきの間にフェイントが挟まり、硬質化や攻守が目まぐるしく入れ替わる。
(俺がふたりいたとしても、この戦いに入れるか……?)
テリーも優れた素質と努力で今の騎士の地位を手に入れていた。
幼い頃から優秀な魔術師になると言われ、鍛錬を重ねて……他の騎士団なら騎士団長の位も狙えると思っている。
それでもまだ、このふたりの域には遥かに遠い。
(団長と同じ到達点――)
ロダンは生い立ちを自ら語る人間ではないが、騎士団員の多くはカーリック家の事情をそれとなく知っている。
貴族界で珍しくない上、さほど隠されていたわけではなかったからだ。
だから、騎士団の部下は理解している。
イセルナーレ最高の血統と環境、才能をもってなお、ロダンが恐ろしい執念を捧げて研鑽を続けていることの意味を。
だからこそ信じられない。
ウォリス生まれの貴族とはいえ、ロダンと互角に渡り合える魔術師がいるとは……。
試し合いが果てしなく長く感じられる。輪の誰にとっても――と、ふたりの魔力が一瞬で途切れた。
ふいの終わりと凪。
突然に魔力の波が消え去り、静寂が訪れる。
エミリアがふぅ……と息を吐く。
「時間切れね」
「ああ、決着はつかなかったな」
そこで観衆はようやく察した。
お互いにぴったしの呼吸で20秒の経過を察知し、魔力を止めたのだ。
学生たちは静まり返っている。
「すご……かったな」
「ああ、こんな戦いが見られるなんて」
「ウチの先生、強かったんだな……」
本当の高みに接すると興奮よりも畏敬の念を抱く。
学生たちの思いもそうだった。
ロダンがゆっくりと学生たちに話しかける。
「諸君、これが極みというものだ。才能だけではない――圧倒的な修練、努力の賜物。君たちも努力を怠らず、常に高みを目指してもらいたい」
そしてロダンは手を合わせ、軽く拍手をし始めた。
「デモンストレーションに参加してくれたセリド講師に拍手を」
こうしてエミリアは見送られ、闘いの場から人の輪へと戻っていったのであった。
その日から1年生だけでなく、さらに多くの人に――エミリアは知られるようになった。
エミリアは輪に戻って、わずかに首を傾げる。
学生たちの視線が、ウォリスの貴族学院にいた頃によく見たものに似てきているのだ。
(まさかここの人たちも私のことを『黒の魔女』とか『魔王』とか『闇の魔術師』とか言わないわよね……?)
上級生からも売られた喧嘩は買う!
それがエミリア……!
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