326.黒と白
ガネットとの決闘では、エミリアが本気を出したのはほんの一瞬だけだった。
(――今はあの時とはちょっと違うけれど)
自然体でいたほうが本気を出せる。
魔力は目で見るというより、魂で見るもの。
その場にいた全員がエミリアの闇色の魔力を知覚し、驚いていた。
まだ抑えてはいる。
しかし、背筋に氷を打ち込まれたような……冬に裸でいるような悪寒を感じずにはいられない。
ガネットもキャレシーもエミリアの力はある程度、知っていたつもりだった。
それでもなお、エミリアの強靭かつ圧倒的な魔力に戦慄する。
「こんなに……っ」
「しかもまだ本気じゃないな」
「……怪物ね」
「生まれ持った魔力だけで、こうはならん。どんな鍛錬をしてきたんだ」
「さぁ……でも」
「でも?」
「私たちよりはよっぽど過酷だったんでしょうね」
学生たちの驚きと同じほど、ロダンの部下の王都守護騎士団も内心で震えていた。
テリーが喉を静かに鳴らす。
(マ、マジかよ……! これほどだったなんて……。団長と本当に――)
騎士団員はロダンの本気を知っている。
そのうえでロダンが真っ当な勝負で負けることはないと思っていた。
だが、団員全員が学生よりも遥か上のレベルだからこそ、悟っていた。
ロダンとエミリアは限りなく近いレベルにいる。
「さすがだな」
学生のみならず騎士団員も恐れ、衝撃を受ける。
これこそウォリスの切り札、セリド公爵家の秘蔵っ子……。
だが、エミリアの放つ魔力に対し、ロダンは落ち着いていた。
(懐かしいな)
彼女の奥底と本気を知り抜いているのは、自分だけだという自負がある。
その彼女と久し振りに力試しができるのが嬉しい。
ロダンもエミリアと同程度にまで魔力を解き放つ。
純白と氷。雪と死の世界。
命なき季節の凍てついた魔力。
身震いするほど――吹雪のように鋭く、雪結晶が身体に当たったと錯覚させるほどの魔力がエミリアへと飛ぶ。
「…………っ」
エミリアはロダンの魔力を瞬時に捉え、黒の魔力で押し包む。
もちろん、ロダンはただ魔力をぶつけるだけではない。
魔力の強弱を操作し、いくつかの魔力は矢のように硬質だ。
(そこそこ本気ね)
学生で使っている人間はいなかったが、魔力の操作は自分次第。
ロダンは極めて細かく魔力を制御している。
例えるなら、これまでの試し合いは布生地を持ってぶつけ合うようなものだった。
柔らかいし、動きも丸見え。
しかし今、ロダンがやっているのはそこに木片を混ぜて鈍器を仕込むようなこと。
迂闊に身体で受ければ、当然のごとく軽いショックに襲われる。
もしそれで集中が乱れれば、畳み掛けられて終わり……。
エミリアは鋭利な魔力を瞬時に見極め、闇色の魔力で迎撃する。
(……大丈夫)
わずか数秒の攻防でさえ、学生にとってはあまりに高度すぎた。
エミリアも攻勢に出る。
這い寄る暗黒の魔力がうねり、触手を伸ばした。
地面を這って進んだ魔力は足元からロダンに迫る。
ロダンも霜に似た魔力を顕現させ、暗黒の魔力を相殺する。
魔力が空と地でパチパチと弾け、塵となる。
純白と漆黒が混ざり合い、灰色の魔力の欠片が空を舞う。
学生の中でもこれらの攻防を認識できたのは、少数だった。
多くの学生はとんでもなく高度なやり取りに背筋を震わせる。
エミリアはふっと頬を緩めた。
やっぱり……闘いはこうでないと。圧倒的に勝つのも嫌いじゃないけど、それだけでは退屈する。
「やるわね」
「そちらこそ」
ロダンもわずかに口角を上げた。
まだふたりには余裕がある。
全力ではない。
恐ろしい現実だった。
その様子をもって周囲は確信していた――このふたりはイセルナーレでも最高峰の魔術師である、と。
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