325.挑戦を受けたら
(ど、どこでバレたのかしら?)
ロダンの視線を受け止めながら、エミリアは考察する。
……アレか。
キャレシーが呼ばれた時、一瞬だけ魔力を感知されたか。
にしても、ロダンめ。
こんな人がいる中で挑戦してくるなんて。
(やるしかない)
エミリアは一瞬のうちに心を切り替える。
周囲の目が自分に向いているだとか、キャレシーのリベンジだとか。
それも理由にはなるだろう。
だが何よりもエミリアは決闘で逃げたことがない。挑まれて背を向けるのは、ありえないことだ。
「――いいわ」
エミリアが静かに頷き、前へ出る。
「なぁ、あの人って……」
「そうだ! いきなり決闘したっていう新任の講師!」
「こりゃあ面白い!」
思わぬエキシビションマッチに学生の火がつく。
学生も常々、疑問に思ってはいる――果たして自分の教師たちは『どの
レベルにいるのか』と。
でも教師と学生では試し合いそのものがない。そこにくすぶるものがある。
人生を賭けた学びの場だからこそ、そうした思いがあるのだ。
すすっとロダンの前にエミリアは立ち、彼を見る。
消耗しているのは間違いない。
いくらロダンでもまったくの損耗なしに学生の相手は続けられない。
(だとすると――)
「ルールをふたつ追加しても?」
「聞こう」
「長時間のにらみ合いはお互いに消耗するだけ。20秒で終わりにしましょう」
この形式の試し合いは、エミリアはほとんど経験がない。
それほど長時間やる必要もないし、これなら……まぁ、盛り上がったまま終われるはず。
「いいだろう。私もそのほうが良いと思った」
「もうひとつは……腕を突き出さなくてもいい? 姿勢は自由で」
軽く右袖をまくりながらエミリアは言った。
「その心は?」
「やりづらいわ」
腕を起点に、というのはエミリアはしたことがなかった。
無意味なように思えたので、提案してみたのだ。
学生のざわめきが広がる。
「姿勢は自由って……難しくないか?」
「というか、そんなのアリなのか」
学生にとって腕の突き出しは魔力をイメージする上で重要な点だ。
ボクシングにおける構えのようなもの。どうあれ、やるべき動作だった。
「どちらでも構わん。やりやすいから取り入れられているだけだ」
「ありがとう。じゃあ……」
エミリアは息を吸って吐いて、身体から力を抜いた。
身体の奥底から慣れ親しんだ感覚をたぐり寄せる
喧騒と人の気配が遠ざかっていく。
ロダンも同じだ。
これまでの学生相手とは比べものにならないほど集中している。
人の輪から少し離れたベンチでキャレシーは休んでいた。
とはいえ、どうなっているかは離れてもなんとなく伝わってきていたが。
エミリアはロダンの挑戦を受けるらしい。
「少し落ち着いたか」
「うん……ありがと」
ガネットに連れられ、彼の水筒の紅茶を飲んだことでキャレシーの体調はかなり良くなった。
(なんだかんだ面倒見はいいのよね、コイツ)
ふとすると隣のガネットに視線が寄りそうになるのを振り払うため、キャレシーはエミリアの話題を振った。
「センセーも本気になるかな」
「ある程度はな」
「どっちが勝つ?」
ガネットはエミリアと決闘したことのある人間だ。
戦った人間にしかわからない手応えというものがある。
「わからん。そういうレベルにいない」
「それって……どういう意味?」
「お前ならわかるだろ。俺たちはあのふたりの勝敗を予想できるレベルにいない。それだけだ」
少し癪ではあるが、ガネットの言う通りだった。
自分たちのレベルでは、あのふたりの奥底を推測することさえできない――。
エミリアの声が人の輪を突き抜けて透き通るように聞こえてくる。
「始めましょう」
次の瞬間、その場にいた全員が感じ取った。
エミリアの魔力。
漆黒の闇。光なき世界。
星が失せた夜。
原初の無に近しい、闇色の魔力を。
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