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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
4-2 ふたつの因縁

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324/335

324.刻め

 自らの肉体にルーンを直接描く技術。生体ルーンの秘術。


 キャレシーはこれまでの、ふたりの生体ルーンを見てきた。


 ひとりはガネットの熱の拳。

 燃えるような熱さを顕現させていた。


 もうひとりは――エミリア。

 漆黒の鏡のような、ルーンの装具でも見たことがない不可思議な魔術だった。


(私がやれるのは。やるべきなのは)


 ガネットの熱のような。

 単純明快なルーンだ。


 イメージが深化する。


 心が解き放たれ、魔力がはためく。


(海と青――)


 キャレシーはあまり言わないが、自分の青色の髪色は好きだった。

 たまに寝癖を残したまま大学に来るけれど。


 青、海のように澄んで、純粋な青。


 水ならば、毎日飲んでいる。

 知っている。


 右の拳に魔力でルーンを描く。


 水を生み出すルーンはあるが、とてつもなく魔力の消費が悪い。

 一般的ではないが、それは存在した。


 あのルーンを。

 自分の肉体に顕現させる。


 ただ、速度は話にならないほど遅い。


 ロダンは……何もしてこない。


 キャレシーが何をしようとしているか、理解してないわけがない。

 エミリアと親しい間柄なのだから、当然わかるはず。


 妨害するつもりなら、たやすいだろう。でもそれはなかった。


(余裕ってことね)


 キャレシーは数十秒かけてルーンを描いていく。


 魔力が急速に失われ、脱力感が広がる。想像よりも消耗が激しい。


 口から荒々しく息を吸って吐いて……足が震える。


(キッツい……! でも……っ! あと、もう少し!)


 多分、ルーンを発動させている時間も一瞬が限界だ。


 しかし、それでいい。


 最後に思い切り――ぶつけてやる。


 キャレシーがひときわ強く目を閉じて、魔力を拳に集めた。


 本来は感覚だけの魔力が実体化し、形を持つ水と化す。


 薄い水の外套が広がり、ロダンへと向かう。


 静かに、ロダンが言葉を放つ。


「待った甲斐があった」


 ロダンの腕にわずかに力が入る。


 跳ねる水の膜が瞬時に凍り、氷の粒子へと変わった。


 舞い散る氷が太陽の光を散乱させ、きらめく。


「――っ!」


 何をしたのか?

 その疑問は瞬時に解けた。


 ロダンもまた、氷のルーンを身体に刻んでいたのだ。


 キャレシーが水のルーンを発動したすぐ後に、氷のルーンで水を凍らせたのだ。


(すっご……!)


 つまりロダンはキャレシーのやろうとしたことを完璧に読み、上回った。


 ――やりきった。

 

 キャレシーは空へと溶ける氷の粒を見上げながら、へたり込んだ。


 同時に拳に刻んだルーンも消える。

 やっぱり一瞬が限界だった。


「……ふむ」


 ロダンも魔力を止める。


 そこでキャレシーはふと、周囲がとても静かなことに気がついた。


「え……あれ?」


 騎士団の人たちが、キャレシーを信じられないという顔で見ている。


「あ、あれってもしかして――」

「まさか団長もアレをするなんて……」


 ロダンが視線を軽く向けると、騎士たちの話が止まる。


「君はまだ1年生だな。総合力で考えれば、発展途上だ」

「はい……」


 ロダンの調子は変わらない。


 そういえば調子に乗って生体ルーンまで試してみたけど、これは良かったのだろうか。


 考えずにやってしまっていた。


(もしかしたら、マズかった?)


「しかし潜在能力の高さと現状の研鑽度合いは大いに評価できる。師に恵まれた」

「…………」


 自分でもそう思う。

 エミリアに直接言うのは恥ずかしいけれど。


「君に紹介状は不要だろう」

「えっ……?」


 思ってみなかったロダンの言葉に、周囲の学生も驚く。


 少なくとも、紹介状をもらえる水準

にはいたのでは――と。


「今のまま勉学に精進すれば、どのような魔術師の道にも進める。心が決まってから、騎士団の門を叩くがいい」


 この人は。

 どこまで理解したのか。


 キャレシーの迷う心まで、見通したのか。


「ありがとうございます……」


 キャレシーは言って、頭を下げた。


 ふらふらのキャレシーをガネットが連れて戻る。


「さて……」


 ロダンがすっと人の輪の一角を見つめる。


 ぴったりと視線が合ってしまって。


「……あ」


 エミリアは思わず声を出して、固まった。ロダンの透き通る声が響く。


「いいところだ。ちょうど大学の教員が――手本を見せてくれる。君たちも学びを得られるだろう」

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― 新着の感想 ―
トリスターノに止められて怒られるまで、2人共楽しんでそう…(笑)
何かもう、関係者皆が立ち見の中、最前列に三角座りの全力待機体制で成り行きを見守っていたい…!
え?2人が試合? まぁお互い玄人だし加減もするけどこれルーンの秘術の応酬になってエミリアの化け物練度が露呈する流れになるかな。 なんでこの練度でパート採用?とか言われそう。
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