323.キャレシーの挑戦
一瞬、ロダンは愛しい魔力を感じ取った。
それは安らぎの夜色。漆黒よりも深く、魂に染み込む魔力。
ロダンは魔力の主を察しながらも目線で追いかけることはしなかった。
「おい、やってみたらどうだ?」
ガネットは楽しそうにキャレシーへ呼びかける。
「……なんであんたじゃなくて、あたし?」
「さぁな。ま、俺は元よりこうした試し合いにも騎士にも興味ない」
決闘馬鹿のガネットにとって、このような試し合いは特に興奮しなかった。
「あの子って……もしかして1学年生!?」
「カーリック様から直々に呼ばれるなんて……!」
周りの学生も1学年が呼ばれたとあって、再び熱気が戻ってくる。
乗り気でなかったキャレシーではあるが……こうも注目されると逃げづらい。
さすがにこの状況で回れ右する勇気もなく、キャレシーは渋々と前に出る。
(勝てるわけないのに――)
キャレシーは目の前のロダンと自分の実力を冷静に判断していた。
ロダンとは夜会でも見かけたが、国の要人が集まるあの場でも群を抜いた魔力だった。
(……イセルナーレで一番っていうのも、嘘じゃないかも)
半分読み飛ばしている新聞記事……その中のイセルナーレ最強魔術師ランキング。
新聞記者の書き飛ばした酒場向けの記事では、ロダン・カーリックこそイセルナーレ最強とされる。
もっともロダンは社交界にも決闘の場にも姿を見せないので、あくまで推測に過ぎないが……。
だが、彼と訓練したことのある名だたる騎士や魔術師たちは「ロダンこそ現イセルナーレで最強」「少なくとも3本指に入るのは間違いない」と評する。
(それに比べたら、私なんて……)
平民出身。家系に魔術師はいない。
実技はまだまだで、座学のほうが好き。
なのに……キャレシーは思った。
(……でも不思議。絶対に勝てないのに、負けたくない)
自分は変わっているのだろうか。
いや、変わりつつあるのだ。
ロダンの前に立つ頃には、キャレシーの背筋はまっすぐに伸びていた。
深い青の瞳――にキャレシーは目を閉じる。
(あの目を見ちゃだめだ)
静かに、作法に従って拳を作った右腕を差し出す。
「では、始める」
「……はい」
静かに答えて、キャレシーは魔力を解き放つ。
普段は抑えている魔力。
青い海。水平線。細かいことはどうでもいい。
ただ、見せる。
キャレシーの魔力はこれまでの学生のような無色透明ではなかった。
ほう、とロダンは唸る。
(落ち着いている)
不思議だ。キャレシーよりも優れた学生は、さきほどまでに見た。
総合力ならイルザのほうが上。
どのような魔術師でもそのように評するはずだ。
なのに、なぜか……ああ、とロダンは思い至った。
凍える魔力の波動をキャレシーは受け止め、流す。
雪の破片がふたりの間に舞い散り、冷気が吹きつける。
(まだまだだが、エミリアの業だ)
彼女も魔力を読み、受け流すことに長けていた。
エミリアほど、そうした業に長けている者はいなかったが……。
(彼女特有のものだと思っていたが、そうではないのだな)
キャレシーの魔力の扱い方には、エミリアの薫陶が垣間見える。
エミリアの足跡。
彼女の教育の成果に触れることができて、ロダンは嬉しくなった。
ロダンはさらに巧みに、鮮烈に魔力の波を叩きつける。
これまでとは違う荒々しい魔力に、学生たちも気がついていた。
キャレシーは耐える。
静かに――青色の魔力を操って、魔力をたぐり寄せる。
(……大丈夫だ。まだ)
センセーの本気よりは手加減されている。
それがわからないキャレシーではない。
でも。
このままじゃ後がない。
何か――生半可なことじゃ、無理だ。
そこでキャレシーは過去のことを引き寄せ、閃いた。
自分とガネットはほぼ互角。
(成功するとは思えないけれど)
でもどうせ駄目なら、やってみよう。
キャレシーは心の中で形作り、表現する。
右腕の拳――そこに魔力で直接ルーンを描くのだ。
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