322.挑む
次の挑戦者は長身の男子学生だった。
さきほどのイルザと同じ3学年だ。
(……ふむ)
ロダンは心中で素早く値踏みする。
魔力量はそこまででもない。
しかし技量はそこそこありそうだ……。
先ほどのイルザは突出した学生だろう。魔力量だけで言えば、新米騎士にも並ぶ。
学生がロダンの前に来る。
緊張、かすかな震え。
人前に慣れていないのか――。
まぁ、いい。
ロダンは静かに宣言する。
「では、始めようか」
「……はい!」
拳を前に出した学生から魔力が放たれる。
勢いと量はさほどでもない。
だが、探るような慎重さがある。
ロダンはイルザの時とは異なり、同じように魔力を放つ。
凍てつく風のような魔力を。
相手に合わせるのも、この試し合いでは重要だ。
ロダンが本気を出せば、5秒で終わってしまうだろう。
しかしそれではテストにならない。
(逸材が埋もれているかもだからな)
イセルナーレの騎士団は最高の人材のみを迎える。それは事実だ。
だが、時にはいくつかの資質が足りないながらも騎士に向く人材もいる。
そもそも学生の成績の尺度で騎士の成否を占うのは簡単ではない。
なので、このようなことを行うのだ。
40秒ほど耐えてから、学生はがっくりと尻から崩れ落ちた。
限界が来たようだ。
「はぁ、うぅ……!」
「それまで!」
テリーの声にロダンも魔力の放出を止める。
「まだ修練が必要だな」
「は、はい……」
学生がうなだれる。
自分でもイルザに及ばないと思っているのだろう。
それはその通り。
イルザより多くの面で、彼は及ばない。
だが、彼は魔力を限界近くまで使った。
魔力が底つく感覚は耐えがたいものだ。学生ならなおのこと難しい。
その面でこの学生は根性がありそうだ。
「しかし何が足りないか自覚し、歯を食いしばれる者は騎士になる素質がある。まだ3学年なら見込みは十分と言えよう――テリー、彼に紹介状を」
「はいよー!!」
「あ、ありがとうございますっ!」
立ち上がれない彼を、友人たちが引きずるようにして戻していく。
「精進を怠るな。では、次は――」
こうしてロダンは次々と学生を迎えては試し合いを続けていった。
無論、すべての者に紹介状を渡すわけではない。
見込みがある者だけだ。
その観点で言えば、やはり最初のふたりは有望株であった。
(最初に挑む者はやはりモノが違うということか)
これは今までの傾向でもあった。
最初の一歩を踏み出す者たちはおおむね、強い。
ロダンは次々に挑戦者をさばいていく。
「まだまだ鍛錬が必要だな。次の者――」
「基礎を見直したほうが良いだろう。では、次――」
そうして20人も試し合いをすると、さすがに挑む者も少なくなってくる。
おおよそ、どの程度のレベルでなければいけないかが学生にもわかるからだ。
それでも挑戦者が続き、夕方が近づいていきた。
学生の熱狂も冷めつつある。
しかし、そんな時こそ逸材が埋もれている。
最初と最後こそ、なお一層の注意が必要。
騎士は忍耐を要する。
華々しく思われる仕事の裏には地道な訓練が必須だ。
ロダンはふと、一人の女子学生に目をとめた。
青い長い髪――退屈そうな顔。
見たような、見ていないような……しかし恐らく貴族ではない。
多分、隣の友人……金髪の男子学生に連れてこられたのか。
(あの青年は――アンドリアのガネットか)
国内の貴族ならば、ロダンはすべて記憶している。
北の地の武闘派貴族。しかし勇猛すぎて軍令を無視する傾向の家だったか……。
(エミリアに一蹴されたのも彼だったな)
数か月前、そんな話をトリスターノやその他から聞いた。
決闘の才能としては、ガネットは素晴らしいのだろう。だが、騎士には不向きだ。
そんな青年が連れている女子学生。
1学年だが遠目でもすでに見るべきところがある。
「そこの青髪の子」
「はっ、ええっ……? あたし!?」
ロダンに顔を向けられ、キャレシーは飛び上がらんばかりに驚いた。
同時にエミリアもびっくりした。
まさか、キャレシーがロダンに呼ばれるとは。
ロダンの挑戦的で魅惑的な眼差しがキャレシーを突き刺す。
「君はすでに見所がありそうだ。前に来てみないか」
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