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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
1-4 エミリアという母

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32.精霊ペンギン

 不動産屋を見送ったエミリアとフォード。

 精霊ペンギンを隠したフォードが身体をずらして、おずおずと玄関を見る。


「部屋の人、帰った……?」

「うん、もう大丈夫よ」


 フォードの身体の向こうから精霊ペンギンが這い出る。


 ふわふわの黒毛、つぶらな瞳……コウテイペンギンの精霊だ。

 頭をちょこんと傾けて――。


「きゅう?」

「かわいいっ……!」


 フォードが手を出そうとして、引っ込める。

 精霊に触るには気をつけないといけない――そう教えられているからだ。


 エミリアがフォードと精霊ペンギンの近くに腰を下ろす。

 こうして近くに寄っても精霊ペンギンの魔力はごく小さい。


 エミリアも部屋に入ってきた瞬間はわからなかったほど。

 経験上、このクラスの精霊はほぼ無害だ。


(……工房のほうが魔力が濃いくらいね)


 これだけ弱い魔力なら、このギルド地区で気がつく魔術師は少ないだろう。

 精霊の魔力が紛れてしまうからだ。

 

「どこから迷い込んだのかしら」


 イセルナーレの精霊避けの結界は機能しているように思う。

 しかし結界も常に完璧ではない。


 精霊避けの結界もルーン魔術であり、劣化を免れない。

 時に穴が開いたり、張り替える作業が必要になる。

 その瞬間に潜り込んできた、というのがありそうだった。


 うずうずするフォードをエミリアが見やる。


「……触ってみる?」

「いいの!?」

「ええ、そっとね」


 エミリアに言われ、フォードがぐぐっと小さな手を伸ばす。

 顔には緊張と喜び――ゆっくりとフォードの手が精霊ペンギンに触れそうになって……。


「きゅぅ!」


 ふにっと精霊ペンギンのほうからフォードの手に身体を擦りつけてきた。


「あっ……! 柔らかい!」


 毛並みは空気を含み、温かい。極上の触り心地だ。

 天上の楽園にいたとしても味わえない、至福の体毛。


 そのまま精霊ペンギンはすりすりとフォードの手の感触を確かめる。


「きゅう~……」

「ふふふっ、かわいいねー」

 

 フォードの優しい触り方に精霊ペンギンもご満悦のようだ。

 とても人懐っこい精霊らしい。


「嬉しく思っているようね」

「そうだよね! わぁ~、ふわふわー!」


 フォードは顔をにまにまさせ続けていた。

 彼のそんな顔を見ていると、エミリアも嬉しくなる。


(さて、どうしようかな……)


 小さな精霊をどうするか、色々と選択肢がある。


 ひとつは人のいないところに送り届けること。

 もうひとつはこっそり置いておくこと……。


 学院時代、潜り込んできた精霊を匿っていた学生が何人もいた。

 ただ、それで問題になったことはない。


 なぜなら、それは精霊と心を通わせている証明だからだ。

 精霊魔術の訓練として責められるべきものではない。


 もっとも、やんちゃな精霊が事件を起こした場合は別だが……。

 弱い精霊でも家具をかじったり、おやつを盗み食いしたりはできる。

 それらを隠していた学生もまた多かったわけだが。


(でも、この精霊に悪いことができるとは思えないし……)


 これほど小さい精霊はめったにいない。

 ウォリスでの経験でもそうだ。


 フォードの将来について、エミリアはいつも考えていた。


 イセルナーレで生きていくにしても色々な道がある。


 その中でフォードには鷹の眼という才能があった。

 フローラとグロッサムが教えてくれた、高感度の魔力感覚だ。

 

 これを活かした道を示してみて……沿ってみるのが無難なのかもしれない。

 もし他にやりたいことが見つかればそれに進んでもいい。

 でも、それまではフォードの才能を伸ばすのがベターのはずだ。


(精霊と一緒にいれば、感覚は磨かれるはず。それに、寂しさも薄れるかも……)


 エミリアの仕事は収入にも波がある。

 フォードがひとりで留守番できる年齢になった時、エミリアはもっと働くつもりでいた。

 そうでないと余裕ができないからだ。


 大学資金まで見据えると、相当な貯金が必要である。


 フォードに寂しい想いをしてほしくない。

 でも先々を考えると働くつもりでいたほうがいい。


 その時に、小さな精霊がそばにいてくれるなら。

 精霊もエミリアの家から離れたくないと思っていてくれるなら。


 この出会いは決して悪いものではない。


「この子、置いておく?」

「だ、大丈夫? ……いいの?」

「フォードに懐いているみたいだし、どう?」

「もちろん! 一緒にいたい!」

「きゅっ、きゅう!」


 精霊ペンギンも羽を振り上げる。

 ……言葉は理解していないと思うが、精霊と心が通じないわけではない。


 それは精霊魔術でよくエミリアも知っている。

 嬉しさ、安堵、ポジティブな感情にあふれていた。


「この子もここにいたいようね」

「きゅう~~!」

 

 精霊が何を求めているか、知るのは簡単ではない。

 列車を止めた精霊ペンギンはレールに身体を擦りつけたくて、ああしていた。


 この精霊ペンギンは今のところ、エミリアの家にいようとする気分のようだ。

 だったらいてもらおう、せっかくだし。

 

 こうして新しい家が決まり――精霊ペンギンもエミリアの家族に加わったのであった。

きゅい (・Θ・ っ )つ三


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