315.ルールー・ペラーダ
(……髪を直すなんて……余裕、それとも……)
エミリアはキャレシーに悟られないよう、目線をずらしながら観察した。
確かに手鏡で髪に触れているが、やや顔全体が上向いている。
それにキャレシーの唇が暗唱しているみたいに動いていた。
(なるほど……。記憶するためのルーティンかしらね)
キャレシーもクールな顔をしているが、真剣なのだろう。
髪を触りながら思い出すのが、彼女流のやり方に違いない。
ぽつぽつと学生が講堂に入ってくる。
と、そこでエミリアとさほど変わらない茶髪の女性が講堂に入ってきた。
おずおず……。
黒のきちっとしたスーツ。
教職員だ。エミリアの補佐に、今日は3人来ることになっている。
(全員女性で初対面だから、まぁ……わからないんだけどね)
顔立ちからすると10代後半くらい、背もかなり小さい。肩も丸い。
自信なさそうな顔つきだが、親しみやすそう――背を丸めた彼女を後ろから見ると、学生との区別に苦労するだろう感じだった。
(でもそれは外見だけだけどね)
探りを入れるまでもなく、彼女の魔力と隠蔽は非常に洗練されていた。
内在している魔力も豊富な上、技量にも長けていそうだ。
このような学生がいるはずもなく、彼女が補佐の教職員だろう。
エミリアが茶髪の女性に近寄り、手を差し出す。
向こうはエミリアのことを知っているはずなので、握手からでもいいだろう(補佐に来る人間は主たる試験官を知っているはずだから)
「初めまして、今日はよろしく――」
「あああっ……! 本当にすみません、すみません……っ!!」
茶髪の女性はエミリアへ直角にお辞儀した。
ぺこー!
あまりに綺麗な頭の下げ方。
だが、エミリアはぽかんとしてしまう。
この女性に謝罪される経緯がまっったくわからない。
何かあったっけ……?
「……ええと、その」
「ほんとーに! 大変で! 恐ろしく! 言語道断なほど、ご迷惑をおかけいたしました……!!」
なおも頭を下げる女性。
学生たちも、こちらをもちろん見てくる。
キャレシーさえも手鏡をズラして、胡散臭く見てくる始末だ。
ああ、心の声が聞こえる……!
『エミリア講師、何かやったか?』
『また決闘なんかを申し込んだ? ボコした?』
そんなことはない、と断言したい。
エミリアは決闘に強いだけで、決闘が好きなわけでは……嫌いでもないが……もにゅもにゅ。
「……ごめんなさい、あなたとは初対面のはずよね。どうして謝られるのかもわかっていなくて」
「あああっ!? そうでしたぁ! すみません、すみません! 私どうにもそそっかしくて……。この前も食べ過ぎの食中毒で大変なことに……!」
「食中毒? あ、ああっ!」
エミリアの中で点が繋がった。
そもそもエミリアが職員の正式採用の時期から外れて臨時講師になった要因。
それはルーン消去の講座を担当する講師が、食中毒でダウンしたからだ。
「もしかしてあなたがダウンした……?」
「はいぃっ! ルールー・ペラーダと申します!」
ようやく顔を上げたルールーがエミリアの手を取る。
ふにっと温かい手だった。
そしてペラーダという姓名。
「ペラーダ……というと、ガンツ教授の……」
「ペラーダは妻方の姓でして。私は――ガンツ教授のはとこですかね」
なるほど、ガンツ教授の母方のいとこの子か。
ルールーがふんふんと頷く。
「そんなふうになっています」
「……え、ええ……わかっているから大丈夫よ? 色々と」
危ない。
ガンツ教授の過去の経歴は、一応国家間のやりとりで抹消された事柄なのだ。
もはや大したことではないとガンツは言っていたが、それはガンツの見方だ。
大したことであったら問題である。
にしても、ルールーの瞳の金色の色はガンツによく似ていた。
さらにどことなく人懐っこい性質は……ペラーダ家のもたらしたものだろうか?
ガンツはそこに惹かれたのかもしれない。
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