310.ルルの役目
「どうじゃ、やってみぬか」
目を細め、問うてくるガンツ。
突然のことにエミリアは固まるしかなかった。
でも、悪い話ではなかった。
自分でも思っていたより、先生稼業は楽しい。
エミリアはそう感じていた。
学生に囲まれ、成長を助ける。
今まで……前世でも今世でもやったことのない仕事だったが、やり甲斐がある。
エミリアは手をぐっと握った。
「私でよろしければ」
「うむ……セリド講師はまだ若いが、すでに良いものを持っておると思う。トリスターノも、そう言っていた」
ガンツの年齢や事情について、トリスターノは当然知っているのだろう。
「トリスターノに相談したら、少し渋られたがの」
「……ええっ?」
「おおかたルーン魔術でどこぞの専任講師にと……そんなことを考えておったのかも。しかしまぁ、わしのほうが先じゃわい」
ガンツがカラカラと笑う。
何か重いものが取れて、ひょうひょうとした風だった。
「さて、詳しい話はあとでまたするかの。そろそろ学生を入れねば」
「はい……っ!」
そこでエミリアははっとした。
後任教授。いずれ、もっと先の話ではあるけれど……それはそれとして。
「このルルには、どのようなお仕事が……?」
「ん? ああ、そうじゃった」
ガンツが杖をすすーっと動かす。
講堂の道から道へ。
そして講壇へと。
「精霊魔術の講義なのに、精霊がいないのも。試験中適当に歩いて、あとは触らせてもらえれば……どうじゃ?」
「きゅい!」
ルルがしゅしゅっと羽を振る。
なるほど、ふれあいのためか……。
そこまで大変そうな役割ではなかった。
「そうでした、王都は精霊避けの結界があるのですものね」
「うむ……地方に行けばまだしも、王都では精霊と触れ合う機会は多くないからのう」
精霊のパワーは鉄道があるこの世界でさえ、いまだに圧倒的だ。
巨大精霊ともなれば、列車をばしゃーんすることも、建物をどごーんすることも容易い……。
アンドリアの精霊ビーバーのように。
「……きゅ!」
ルルが『頑張ります!』とアピールしている。
そのやる気は素晴らしい。
エミリアがルルをバッグから抱えて、ふにふにと揉む。
「きゅっ、きゅー♪」
「懐いているようじゃのう。わしも少し触ってええかい?」
「ええ、もちろんです」
そのまま渡したり、直に触ってもらったりしていいものかどうか……エミリアは無難にルルを近くの長机にセットした。
「きゅぅー」
「ふむふむ、どれどれ」
ガンツがそーっと手を伸ばし、ルルのお腹に指を埋める。
もふもふ、ふかふか……。
冬毛仕様のルルはとても良い触り心地のはず……いや、それが目的ではないかもだけど。
ガンツの撫で方が上手いようで、ルルが嬉しそうに鳴く。
「きゅー♪」
「ふぅむ……なるほど……」
ガンツが頷き、ルルから手を離した。
「ど、どうでしたか? ペンギンの撫で心地は……」
「ペンギンを撫でたのは初めてじゃが……」
ガンツの目的はそこにはないようだった。
「イセルナーレの他の精霊やダイトの連れていた精霊とは、何かが違う気がしたのじゃがの」
ガンツが首をひねると、扉から学生たちが入ってきた。
どうやら時間のようだ。
エミリアには特段、ルルが変わっているようには感じないのだが……。
しかし、人懐っこさは相当なものかもしれない。
だけどそういうことでもないのかも?
ガンツがルルの頭をぽふぽふと撫でる。
「試験の補佐を頼むぞい、セリド講師」
「は、はい……!」
「きゅー!」
こうしてルルも精霊魔術の試験に参加することになった。
ぽにぽに歩き回り、撫でられ……。
愛でられるだけともいうが、これも大切なことである。
学生たち『なぜペンギンが……?』
ルル「きゅい!」(胸を張りながら試験会場を練り歩くルル)
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