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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
1-4 エミリアという母

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31.新居

 1週間、エミリアはギルドの仕事をこなして報奨金を貯めた。

 工房にもかなり馴染めた気がする。


(……フローラさんのおかげね)


 魔術ギルドの工房の職人は一本気だ。

 仕事ができる人を尊敬し、爵位や血統など目もくれない。

 今までの貴族的な環境とは真逆である。


 その上でフローラのあの試験をクリアして所属したのは、やはり正解だった。


 なので、このタイミングでそろそろ本格的に家を決めようかとエミリアは思う。

 今日はギルドの仕事を休みにして、物件へと向かうのだ。 


 もうかなり物件は回っていて、今日は最終確認でフォードを連れていく。


 7月中旬、イセルナーレは本格的に暑くなる。

 ホテルから繋がる舗装された道をエミリアはフォードと歩く。


 フォードの腕振りが心なしか大きい。


「そろそろお(うち)、決めるんだね……!」

「本当にどこでもいいの?」

「僕はお母さんが選んだところなら、どこでもいいっ」


 新居の希望をフォードは特に教えてはくれない。


(言葉の端々から、好きそうな家は伝わるけど……)


 フォードが好きと言った家は、屋根が色鮮やかな家だ。

 あとは庭……は難しいから、ベランダのある家。


 できるかぎり、そこに沿いたい。

 フォードを連れ、向かったのはギルド地区のほど近くにあるアパートだ。


「わぁー!」


 赤い屋根、白い外壁――外壁にはさらにペンギンとカモメの巨大な絵。

 ウォリスでは到底考えられない物件だがフォードは大喜びだ。


 築年数は10年ほど、広さは2LDK。

 家賃は月4万5千ナーレ。日本円で約9万円。


(もう少し高いところにも住めるかもだけど……)


 現状、エミリアは出勤するごとに1日5万から7万ナーレを稼げている。

 それを基準にすれば立派な一戸建てで暮らすことも可能だ。


 しかし、エミリアにはそこまでの勇気が出なかった。

 フォードもこれから大きくなる……教育費は貯めておきたい。


 物件の入り口には黒髪の女性不動産屋が待っていた。


「エミリア様、お待ちしておりました」

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」


 不動産屋の案内でアパートに入っていく。

 入り口には警備員用の窓口があり、屈強な老人が詰めていた。


 ここは24時間、警備員在住だ。

 それでいて4万5千ナーレはなかなかお手頃である。


 空き部屋は2階、上りやすい階段でそこまで向かう。

 部屋は角部屋。日当たりも良好だ。内装は綺麗で広々としている。


「いい感じかもー」


 フォードの感触もいい。

 エミリアは前世の知識をもとに、部屋をチェックしていく。


(壁も薄くはなさそう、水回りもトイレも問題なし……)


 この世界では列車もあって、大都市は水道にも不便はない。

 収納の広さ、動線、ベランダ、窓の外の道路の騒々しさも……。


 普通の公爵令嬢なら思いつかないチェック項目を頭の中で埋める。


「僕はここ、いいと思うな」

「うん、私も良いと感じるわ」


 実際、いくつか見て回ってのフォードとの来訪ではある。


(決めちゃおうかな……!)


 気持ちはもう傾いていたので、エミリアはこちらでお願いすることにする。


「では、こちらに住まわせてもらえればなと……!」

「ありがとうございます!」


 そこから契約書類へのサイン、初期費用の支払い……などをその場で終わらせる。


 他国人のエミリアがスムーズに契約できたのは、前世の知識とイセルナーレ魔術ギルドの所属なのが大きい。

 両方ともなかったらと思うとぞっとする。


(……ん?)


 書類作業を一段落して、エミリアはふっと部屋の中に気配を感じた。

 魔力の小さなうねりだ。


 部屋の中央、フォードのすぐそばだ。

 

(精霊……?)


 首をわずかに動かしてフォードのほうを見る。


 彼のすぐ前に小さな精霊がいた。

 腹這いになっている精霊ペンギンだ。


 サイズは鉄道で見た精霊ペンギンよりもずっと小さい。

 フォードにも抱えられる、20センチほどのぬいぐるみサイズだ。


「きゅう……」


 フォードは精霊ペンギンをじっと見ている。


(開いている窓から入ってきた……?)

 

 王都には精霊避けの結界が張ってあるはず。

 だが、市街地のほうは完璧とは言えない……ウォリスほどの結界ではないからだ。

 なので迷い込んできたのかもしれない。


「……あ」


 フォードがエミリアの視線に気がついた。

 不動産屋に見えないよう、フォードは身体で精霊ペンギンを隠して首をぶんぶんと振っている。


 不動産屋に言えば、事件になるかもしれない。

 しかし、この大きさの精霊が害をなすことはないだろうとエミリアは判断する。


 危険度で言えばハムスターと同レベルだ。


(事件になればロダンの手を煩わせるしね)


 不動産屋がエミリアの首の動きに目を止めた。

 ちょっとエミリアの反応を不思議がる。


「……? どうかされましたか?」

「ああ、いえ! 暖かい風がちょっと……」


 手でパタパタとあおぎ、エミリアは目線をそらす。


「そうでしたか、では次の書類を――」


 不動産屋はそれで納得したようで、また契約の話に戻っていく。


 すぐに仕事の話は終わり――鍵も受け取ることにした。

 何の家具もないのだけれど……でも、家具もメドはつけている。


「では、私はこれで大丈夫でしょうか……?」


 不動産屋が書類を整え、立ち上がった。


「はい、後はこちらで。ありがとうございますっ」

「こちらこそ、どうもありがとうございました。何かありましたら不動産『シュリンプテイル』まで、お気軽によろしくお願いいたします!」


 こうしてビジネスの話が終わった不動産屋は、すっと部屋から去っていく。


 ふぅ……精霊ペンギンはバレなかった。


「きゅうー」


 そして部屋に残ったのはエミリアとフォード、可愛い精霊ペンギンだった。

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― 新着の感想 ―
ちょっと読み返して再確認 そうか、ペンギンの登場はここからだったんですね
不動産屋さんの名前がかわいいですね!! 海の近くって感じ……!! 海が遠いところにしか住んたことがないので、海鮮の豊富な場所って憧れます…!!
エビのしっぽw 姉妹店でエビフライの尻尾ねーかしらw
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