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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
4-2 ふたつの因縁

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309/327

309.ガンツの過去

「ど、どういうことですか? 50年、精霊魔術を使っていないだなんて……」

「トリスターノから、何か聞いておらんのかぅ」

「いいえ。そのようなことは一切仰られておりません」


 ガンツが眉を少し上げた。


「やれやれ。相変わらず律儀なやつじゃ。少し、いいかの?」

「……はい」


 試験の用意は、他の補佐の人がしている。


 何も手伝わないのは心苦しいエミリアだが、この場の監督者はガンツだ。

 彼がそのように決めたのなら、従うしかない。


「わしがウォリス人というのは、覚えておるか」

「もちろん……衝撃的なことでしたから」


 前回した話。

 ガンツはイセルナーレ魔術大学で精霊魔術の教授職にある。


 教授職ともなれば、そのほとんどがイセルナーレ人だ。

 まして精霊魔術は国家戦力にも関わる分野である。


 だが、ガンツは書類上イセルナーレ人というだけで、その実はウォリス人なのだとか。


 ちなみにウォリスの貴族学院でも外国人の教授はいなかった(外国語の科目は例外として)


「わしもそのつもりはなかったんじゃが……イセルナーレに来たのは、留学のためじゃった。イセルナーレの優れたルーン魔術を学んでこいと国に言われての」

「なるほど……」


 そのような命令をウォリスから受けるのは、本当に優秀な魔術師だけだろう。


「しかし何の因果か、留学中にわしの本家が政変に巻き込まれ、取り潰されてしもうたのよ」

「…………」

「あとから新聞や伝聞で知ったことがどこまで真実かはわからん。じゃが、これでわしは帰る家を失ってしもうた」

「それで……そのままイセルナーレに?」

「そんなところじゃ。その頃には、ちょうど愛し合う人にも巡り合えた……帰国して破滅の危険をおかすか、留まって祖国を捨てるか。難しかったが、わしはイセルナーレに留まる道を選んだ」


 ガンツは寂しげに言って、窓の外を見た。


 なんという……。


 でも、エミリアにはガンツの選択と苦痛が痛いほどわかった。


 なぜならエミリアもまた、ガンツと同じく祖国を捨てた身だからだ。


 残る道もあっただろう――フォードとともにあのウォリスに残る道もあった。


 でも、そうはしなかった。

 

 ウォリスは道から外れた貴族には冷酷だ。あのままウォリスに残って耐えて、息子が幸せになる予感がしなかった。


 だから捨てて、選んだのだ。


「間違いなくウォリス政府はイセルナーレに、わしを引き渡すよう求めたはずじゃ。だが、精霊魔術を習得していたわしは、イセルナーレにとっても相応の価値があったのじゃろうな。いくつかの条件が取り交わされ、わしは助かった」

「それらの条件がイセルナーレ人となること、精霊魔術を使わないことでしょうか……?」

「さよう。教えることは構わんと言われたが、使うなと」


 それは――しかし、この世界には契約魔術みたいな言動を縛る特別な方法はない。


 いわば本当の約束。


 それをガンツは50年も守ってきたのだ。


「……大変でしたでしょうね」

「思うたよりな。しかし、そろそろ潮時じゃ」


 ガンツが顔を上げる。


 そのシワと白髪の顔には後悔はなく、晴れ晴れとしていた。


「イセルナーレでの生活はとても楽しかった。わしの仕事も、あとひとつだけじゃろうて」

「それは……?」

「精霊魔術の後任教授を探すことじゃ。それなしゆえ、隠居させてもらえんのだからな」


 ガンツがふふりと笑い、私の胸がどきりと鳴った。


 イセルナーレ魔術大学はイセルナーレ最高峰の学府。


 その教授職――それはすさまじいことだ。


「まぁ、無論……すぐに教授にするわけにはいかん。10年か15年ぐらいか、いずれの話じゃよ」

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