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3.魔導列車

 フォードとふたりで魔導列車の切符を買い、朝一番の列車に乗り込む。


 ふと前世の記憶と照らし合わせて。

 この世界の文明度は近代くらい……明治から大正期くらいはあるだろうか。

 

 各国の主要都市は鉄道や船で結ばれ、都市部には水道もある。

 ……全部、魔力を使った設備だけれど。


 考えながら指定席列車で席を探す。

 平日朝の便だからか、思いのほか列車は空いていた。


(ううむ、自由席でも良かったかも……)


 とはいえ、こちら側の世界で列車に乗るのは初めてだ。

 前世ではいつも混む期間にしか乗らず、指定席を買っている癖が出てしまった。


 まぁ、もうしょうがないか……。


 席に着くとフォードが顔を輝かせながら、小さな声で嬉しそうに話す。


「僕、鉄道乗るのはじめて……!」

「あっ、そっか……。お屋敷から出るの、めったにないものね」

「うん! これがガタンゴトンって動くんだよね? 凄いなぁー……」


 思えばエミリアはフォードを産んでから、旅らしい旅もしていない。

 というより元夫がエミリアとフォードの旅行を許さなかった。


 自分は浮気相手と旅行に行っていながら……。

 おっと、余計なことを考えないようにとエミリアは思考を止める。


 フォードはここまでの列車でも、とても良い子で。

 エミリアの心の奥までしっかりと見通せる。


 いらないことを考えれば、旅に水を差してしまう。


 列車から汽笛の音が鳴り、フォードが身を乗り出して窓にかじりつく。

 その様子を微笑ましく見守りながら、列車が動き出した。


 最初は遅く、徐々に加速して。

 4年半、結婚して子を産んで育てた街を後にする。


 レンガ造りの街からすぐに野原の世界へ。

 こうした身の上になってみると、青空の色濃さに驚いてしまう。


「わぁー……本当に早いねぇ」

「そうね、どう? 酔ったりする?」

「ううーん、大丈夫! 凄いなぁー、んー!」


 フォードは読書好きで、本に熱中している時は生返事。

 今もそんな感じで――本以外では珍しいくらいだ。


「フォード、列車好き?」

「うん、大好き! 僕、いつかこういうの作りたい!」

「ふふっ、フォードなら作れるかも」

「本当!? でも……列車ってどこで作ってるの?」

「これから行くイセルナーレ王国で作っているのよ」

「えー! そうなんだ! わぁ……じゃあ、たくさん列車があるね!」


 イセルナーレ王国はルーン魔術の盛んな国だ。

 色々な物質に魔力を刻み込み、不可思議な力を持たせる。

 

 これがルーン魔術で、イセルナーレ王国は世界でも最先端だ。

 今乗っている列車もルーン魔術の成果のはず。


 対して私たちが住んでいたウォリス王国は精霊魔術の国だった。

 自然にある魔力に自身を同調させ、魔獣や精霊に作用する……物に刻み込むという発想はない。


(……物に魔術を刻み込むなら、魔力は必要なのかな?)


 確か、ルーン魔術では魔力の量はそこまで問題じゃない。

 それよりも手先の器用さと集中力が大事と本に書いてあったような。


(だったらフォードに向いてるかも……)


 フォードの魔力はウォリス王国の貴族の中では少ない。

 精霊魔術は修練が重要だとエミリアは思うのだが。


 しかし、大多数の貴族は魔力の絶対量が重要だと見なしている。

 それゆえにフォードはウォリス王国だと……。


『急ブレーキをいたしまーす!』

「えー?!」


 フォードが列車内放送に振り向いた瞬間、猛烈なブレーキが襲ってきた。

 とっさにエミリアはフォードを抱きしめる。


「わぁっ!」

「フォード……! 大丈夫?」

「……うん。びっくりしたぁ……」


 フォードがエミリアの胸の中で息を吐く。

 エミリアも突然のことで驚いた。


「事故かしら……」


 この魔導列車は直線でそんなに踏切もないはず……。

 なのに、こんな場に出くわすとは運がない。


 少しすると車内放送がまた始まった。


『申し訳ございません、ただいま線路上に精霊が出現しております。近隣の騎士団が精霊を移動させるまで、本列車は停止いたします』


 フォードが残念そうに唸る。


「あー……止まったまま?」

「そうみたいね。しばらく待たないと」


 純粋な魔力で動く構造体――それを精霊という。

 騎士団の人がなんとかしてくれるというなら、それを待つのが良い。


 けれどフォードがもぞもぞと動いて母を見上げる。


「でもお母さんなら、なんとかできない?」

「……うーん、まぁ……」


 精霊に呼びかけるなんて、どれくらいやっていないだろう。

 自信は全然ない。しかしここで待ちぼうけを喰らうくらいなら、挑戦してみてもいいかも。


 この指定席の車両から先頭はすぐそこだ。

 急ぐ旅ではないが、待ったままなのも惜しい。


「行ってみる?」

「うん! 僕、お母さんの精霊魔術を見るの好き!」

 

 自分の得意なことを好きと言われれば嬉しくなる。

 それに同じ列車の人も止まって暇なのか、先頭車両へと向かう人が多い。


 なので、エミリアもフォードを連れて先頭車両に行ってみようと思った。

 ――それが運命の分かれ道だと知ったのは、もっと後のことであったが。

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― 新着の感想 ―
階級社会で明らかにお金持ちの格好で世間ズレしてない子連れの御婦人がお供も無しに自由席に乗るとか、どう考えても自殺行為なので前世の癖に感謝すべきですね…! ナイスアシスト。 昔の一等車から三等車まであっ…
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