287.年末ほろり話
エミリアが提案したのは、ちょっとした効率化のつもりだった。
年末、誰だって忙しい。
まぁ……異世界でも現代日本と同じだとは思っていなかったけれど。
(どこでも師走ってことなのね)
そういう忙しさがちょっとでも緩和されれば……という気持ちだった。
だけどグロッサムと工房の職人は、あっという間にエミリアの提案を想像以上の形にした。
ものの数十分で壁の空いたスペースによさげな木製ボードが取り付けられる。
横幅10メートル、縦2メートルほどの木製ボード。
「これは、一体どこから手に入れたのでしょう?」
「額縁だ」
「へぇー! なるほど……」
よく見てみると、ボードの縁にそんな痕跡があるような。
確かに絵をセットすればちょうど見栄え良くなりそう。
「ルーンを刻んだ絵が入っていたんだ。珍しい依頼で、必要なのは絵だけ。額縁はこっちで処分なんだが……使い道が見つかった」
グロッサムがふむふむと額縁を眺める。
「ルーンの絵……確かに珍しい依頼ですね」
「最近、流行っているらしい。紙にルーンは相当難しいんだがな……」
ルーンは金属、木材に刻むのが基本だ。
なぜなら刻んだ物自体が破損するとルーンの効果がなくなるばかりか、最悪の場合は発火や爆発の危険があるから。
なので、刻む土台は何十年も劣化しない素材が望ましい。
もちろん柔らかい素材にルーンを刻むのは不可能ではない……ロダンはルーンの刻まれた靴を愛用している。
しかし、これはかなりの例外だ。
ロダンはルーン魔術に卓越している。
靴とルーンの劣化を見抜けるからこそ、使っているのだろう。
そうでなければ本当に危険なのだ。
まして紙にルーンを刻むのはイセルナーレ魔術大学でも教えない高等技術である。
「絵にどんなルーンを刻むのでしょう?」
「色を変えたり、光らせたり……そんな感じらしい。理屈はわかるが、それなら銅像や金属でいいと思うがな」
グロッサムが肩をすくめる。
彼は実利的なルーン職人だ。
装飾の重要性を理解しつつも、あえて脆い素材を使うのは……ということなのだろう。
額縁に紙がぺたぺたと貼られ、デカいスケジュール帳としての実用性が増していく。
「悪くねぇな。改良の余地はあるが」
「良かったです。すみません、横から口を挟んでしまって」
「いいや、ウチらの仕事のやり方も相当古い。新しい提案は歓迎だ。なぁ、お前ら!」
グロッサムが呼びかけると工房の職人が腕を振り上げる。
「おおっー! バダバタ年末を乗り切れるのなら、なんだってー!」
「早く年内の仕事終わらして、酒飲みたいんだぜっ!」
グロッサムがさらに言う。
「だよなぁ! さっさと仕事をやって、新年を気持ち良く迎えようぜ!」
「「おおっー!!」」
と、まぁ……エミリアの提案は好意的に受け止められていた。
「ご覧の通り、職人は正確かつ早くやることが大切だ。スケジュールの乱れは魂の乱れだからな……」
「そ、そうなんですね……」
「仕方ねぇんだがよ。年末は。スムーズに進む案件のほうが少ない年もあった」
しみじみとグロッサムが過去を振り返る。
「アホタレ依頼主が鉄道の年末点検を忘れて、遅れまくって。そんで31日の昼まで仕事してたこともあるんだぜ?」
「うわぁ……」
最初から年末も仕事すると決めているのならまだしも。
狂いまくったスケジュールで、それは辛い。
エミリアの前世も無関係ではないので、ほろりとしてしまう。
「また何か提案があったら、よろしく頼むぜ。いい年末を迎えるためにな」
「……はい!」
エミリアにとっても工房の環境は大切だ。皆が気持ち良く働けるほうがいい。
そしてなんとなくではあるが……ウォリスの公爵令嬢だったエミリアだからこそ、このようなことも一目置かれているのかもと思った。
実際、エミリアは慣れているのだ。
人を率いること、上に立つこと。
それは工房の人間とはまた違った種類の能力であって……エミリアの進路を向上させてくれるものでもあった。
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