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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
4-2 ふたつの因縁

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287.年末ほろり話

 エミリアが提案したのは、ちょっとした効率化のつもりだった。


 年末、誰だって忙しい。

 まぁ……異世界でも現代日本と同じだとは思っていなかったけれど。


(どこでも師走ってことなのね)


 そういう忙しさがちょっとでも緩和されれば……という気持ちだった。


 だけどグロッサムと工房の職人は、あっという間にエミリアの提案を想像以上の形にした。


 ものの数十分で壁の空いたスペースによさげな木製ボードが取り付けられる。


 横幅10メートル、縦2メートルほどの木製ボード。


「これは、一体どこから手に入れたのでしょう?」

「額縁だ」

「へぇー! なるほど……」


 よく見てみると、ボードの縁にそんな痕跡があるような。


 確かに絵をセットすればちょうど見栄え良くなりそう。


「ルーンを刻んだ絵が入っていたんだ。珍しい依頼で、必要なのは絵だけ。額縁はこっちで処分なんだが……使い道が見つかった」


 グロッサムがふむふむと額縁を眺める。


「ルーンの絵……確かに珍しい依頼ですね」

「最近、流行っているらしい。紙にルーンは相当難しいんだがな……」


 ルーンは金属、木材に刻むのが基本だ。


 なぜなら刻んだ物自体が破損するとルーンの効果がなくなるばかりか、最悪の場合は発火や爆発の危険があるから。


 なので、刻む土台は何十年も劣化しない素材が望ましい。


 もちろん柔らかい素材にルーンを刻むのは不可能ではない……ロダンはルーンの刻まれた靴を愛用している。


 しかし、これはかなりの例外だ。

 ロダンはルーン魔術に卓越している。


 靴とルーンの劣化を見抜けるからこそ、使っているのだろう。

 そうでなければ本当に危険なのだ。


 まして紙にルーンを刻むのはイセルナーレ魔術大学でも教えない高等技術である。


「絵にどんなルーンを刻むのでしょう?」

「色を変えたり、光らせたり……そんな感じらしい。理屈はわかるが、それなら銅像や金属でいいと思うがな」


 グロッサムが肩をすくめる。


 彼は実利的なルーン職人だ。

 装飾の重要性を理解しつつも、あえて脆い素材を使うのは……ということなのだろう。


 額縁に紙がぺたぺたと貼られ、デカいスケジュール帳としての実用性が増していく。


「悪くねぇな。改良の余地はあるが」

「良かったです。すみません、横から口を挟んでしまって」

「いいや、ウチらの仕事のやり方も相当古い。新しい提案は歓迎だ。なぁ、お前ら!」


 グロッサムが呼びかけると工房の職人が腕を振り上げる。


「おおっー! バダバタ年末を乗り切れるのなら、なんだってー!」

「早く年内の仕事終わらして、酒飲みたいんだぜっ!」


 グロッサムがさらに言う。


「だよなぁ! さっさと仕事をやって、新年を気持ち良く迎えようぜ!」

「「おおっー!!」」


 と、まぁ……エミリアの提案は好意的に受け止められていた。


「ご覧の通り、職人は正確かつ早くやることが大切だ。スケジュールの乱れは魂の乱れだからな……」

「そ、そうなんですね……」

「仕方ねぇんだがよ。年末は。スムーズに進む案件のほうが少ない年もあった」


 しみじみとグロッサムが過去を振り返る。


「アホタレ依頼主が鉄道の年末点検を忘れて、遅れまくって。そんで31日の昼まで仕事してたこともあるんだぜ?」

「うわぁ……」


 最初から年末も仕事すると決めているのならまだしも。

 狂いまくったスケジュールで、それは辛い。


 エミリアの前世も無関係ではないので、ほろりとしてしまう。

 

「また何か提案があったら、よろしく頼むぜ。いい年末を迎えるためにな」

「……はい!」


 エミリアにとっても工房の環境は大切だ。皆が気持ち良く働けるほうがいい。


 そしてなんとなくではあるが……ウォリスの公爵令嬢だったエミリアだからこそ、このようなことも一目置かれているのかもと思った。


 実際、エミリアは慣れているのだ。

 人を率いること、上に立つこと。


 それは工房の人間とはまた違った種類の能力であって……エミリアの進路を向上させてくれるものでもあった。

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