254.いざ夜会へ
エミリアが日々を忙しく過ごしているうちに、いよいよ夜会の日になった。
年の変わりも近づき、あと数日でフォードも5歳になる。
まさに1年を締めくくるのにふさわしいビッグイベントと言えるだろう――。
エミリアの家ではまさに着替えが終わり、出発までの最終点検が行われていた。
「ルルちゃん、尻尾もいい感じですねー」
「きゅっ!」
セリスがルルの背中側を丁寧にブラシしている。
ペンギンの尻尾は硬くて、バランス取りに使われる……らしい。
丸洗いされてケープを被ったルル。
いつも以上のブラシでふわふわ度が増している。
その瞳は夜会で踊って、食べまくる……そんな決意に満ちていた。
(まぁ、やる気なのはいいことね)
「僕の髪もはねてない?」
「ええ、大丈夫よ」
心配なのはフォードのほうだった。
着替えてから、さらに落ち着かなくなっている。
普段はそんなに髪も服も気にする子ではないのだが、しきりに変なところがないか確認しまくっていた。
「フォード君も格好いいですよ、うん!」
「……そ、そうかなぁ?」
自信なさげなフォードをセリスが正面からむぎゅーと抱きしめる。
「自信持って、ね?」
「う、うん……」
「よしよし」
ぽむぽむとセリスがフォードの頭を撫でて離れる。
(こういう呼吸は……上手いわね)
エミリアは正直、前世を思い出すまで感性の欠けていたところがある。
また、フォードもエミリアには遠慮するところが……ないとも言えない。
そこをセリスがフォローしてくれるのはとてもありがたい。
用意を整え、呼吸を落ち着かせる。
エミリアにとって夜会は慣れたものだが、今回は王族主催。
緊張はしないが気合は入れなければ。
壁時計を見ると、午後3時。出発の時間になっていた。
「じゃあ、行ってくるわね」
「はい、いってらっしゃいませー!」
時間通りに家を出ると、そこには豪勢な馬車が待っていた。
階段を降りて馬車へと向かう。
さすがにドレスで引っ掛けるようなマネはしない。
これでもドレスで歩き回る経験は相当に積んでいる。
(時間ぴったりね)
家の近くに停まった馬車に刻まれしはカーリック家の紋章。
これはロダンの馬車である。
エミリアの姿を認めたロダンが馬車から降り立つ。
彼は普段にも増してきらびやかな黒の騎士服を着ていた。
動きにくそうな気がするので、これはきっと儀礼用なのだろう。
ロダンはエミリアの手を取り、馬車へと導く。
「……綺麗だ」
「ありがと、あなたも素敵よ」
着飾った黒のドレスなどどれくらい振りだろう。
でもロダンは……多分、心底からエミリアの今の出で立ちを綺麗と思ってくれているようだ。
(……なら、大丈夫かな?)
「フォード君もきちんと様になっている」
「あ、ありがとう……! ロダンお兄ちゃんも、本当に格好いいよ!」
「どういたしまして」
微笑むロダンの瞳が、フォードの隣をぺたぺた歩くルルに向けられる。
「うむ……」
ケープを羽織ったルルは自信に満ちてドヤ顔をしていた。
顔をちょっと傾けて、さらに美しい角度を見せつけている。
「……きゅい!」
「いつにも増して、ふわふわだな……」
絶妙なコメントにルルが頷く。
「きゅっ!」
そのコメントで良かったらしい。
というか、恐らくルルはどんなコメントでもポジティブに受け取る気がするのだれど。
ということで一行は馬車に乗り、イセルナーレの王宮へと向かった。
いざ、夜会。決戦の地へ。
【お願い】
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、
『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!
皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!
何卒、よろしくお願いいたします!







