251.キャレシーとフェザネード
広間のメイドも退出をして。
ガネットの母フェザネードとふたりきりになると、彼女は椅子に座るよう勧めてきた。
キャレシーは手頃な椅子に縮こまりながら座る。
「初対面ではないわよね?」
「はい、入学式でもお見かけいたしました」
クアレーン家はアンドリアでは名家だ。
地方行事の後援者としても有名で、新聞の記事にインタビューが載ることもある。
もちろんイセルナーレ魔術大学の入学式でも、ガネットは目立っていた気がする。
まぁ、キャレシーとガネットのふたりがトップでの入学なのだから当然だが。
その時にも今の笑みと変わらず、ニコニコしてガネットを見ていた。
「そうよね? 良かったわ。今日はきちんとご挨拶ができて」
相変わらず意図が読めずに、キャレシーは戸惑う。
このぐらいのことなら、他の人を追い出さなくてもいい気が……。
そこでフェザネードはしっかりと頭を下げた。
「ガネットに付き合ってもらって、ありがとう。感謝してもしきれないわ」
「えっ、あの! そんな……!」
キャレシーは慌てて手を振る。
ガネットの母に頭を下げてもらう理由なんてない。
むしろ感謝しなければいけないのは、キャレシーのほうだ――。
「私のほうこそ、こんな……お屋敷に長々とお邪魔して! ご迷惑をおかけしていますっ」
これはキャレシーの本心だった。
そもそも夜会が不安で、ガネットを頼ったのは自分だ。
しかもガネットはキャレシーの依頼に対して、完璧に応えていた。
わざわざ自分の屋敷の広間を貸し出し(パーティー会場に見えるようになっている)、何時間もつきあってくれている。
「あの、本当に……ガネットからどう聞いておられるかわかりませんが、今回のことは私の……その、ワガママなんです」
フェザネードが頭を上げて、キャレシーをしっかりと見つめた。
「気になさらないで。私は……嬉しいのよ」
「……嬉しい?」
そこでフェザネードが席を立って、テーブルに手をついた。
「私が言うのもなんだけれど、あの子は魔術師としては出来過ぎてて……子どもの頃からああだったの」
フェザネードの声音には、少しだけ疲れたような感じがあった。
「お友達もいるけれど、でもガネットはどんどん調子に乗って。まぁ、仕方ないけどね。イセルナーレ魔術大学の入学試験でもトップの成績を取れてしまうんだから」
それが、とフェザネードは微笑んだ。
「エミリアさんと言うのかしら。とてもお若い講師と決闘して負けてからは素直になったわ」
「あはは……そうですね」
ガネットが変わったきっかけは、やはりそこだ。
キャレシーだって真正面からガネットと決闘したいわけじゃない。
それが……偶然なのかエミリアはガネットの鼻を真正面からへし折った。
「きっと彼女に負けなければ、今日のように……キャレシーさんの手助けをすることもなかったんじゃないかしら」
「……かもしれません」
それはキャレシーも同じだ。
「実は、ガネットを頼りなさいって言ってくれたのはエミリア先生なんです」
「あら? まぁ、そうなのね。エミリアさんが色々と繋いでくれたのね」
フェザネードが頷く。
「彼女には感謝しなきゃ。会う機会があったら……」
「多分、喜ぶと思います。あの人は天性の先生のようだから」
「ありがとう。そうね……」
そこでフェザネードがすすすっとキャレシーへ近寄ってきた。
「あなたは広く物が見えているみたいね」
「ど、どうでしょうね?」
フェザネードの視線は柔らかいが、精神の奥底まで見られているような気がする。
あのエミリアもたまにこんな目をする時がある……とキャレシーは思った。
フェザネードがさらにキャレシーへと近付く。
ふんわりとした優しい香水の匂い。これこそ本物の貴族の女性だ。
「ねぇ、突然ではあるのだけれど。驚かないで聞いてくれる?」
「はい……?」
そこでフェザネードがこほんと咳払いをして。
驚愕の言葉を口走った。
「キャレシーさん――あなた、ガネットと結婚してもいいって気はあるかしら?」
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