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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
1-3 向き合う時

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25.鷹の眼

「なにをしてるんだ、アレ」

「えーと……いえ、なんでしょう?」


 何かマークしたスプーンを当てるゲームでもしているのだろうか?

 イセルナーレの遊びだとしたらエミリアにはわからない。


(フォードはとても楽しそうだけど……)


「うーむ、こっちは終わったし見に行くか」


 グロッサムとエミリアはフローラたちのところへ歩いていく。


 エミリアはそっと行ったつもりであったが、フォードはぱっと母の気配に気がついた。

 にこりとフォードがエミリアとグロッサムに笑いかける。


「あっ、お母さん! お仕事終わったー!?」

「ええ、ここにあったものはね」


 台に近づいてみるとフォードが何をしていたのか、エミリアにはすぐわかった。

 

 並べられたスプーンとフォードの持ったスプーン。

 フォードの持っているスプーンにだけ、ほんのわずかに魔力がある。

 とても弱いルーンが刻まれているのだ。


 そのルーンの魔力の弱さは、エミリアの生涯で見たことがないレベルである。

 故意にこのルーンを刻んだのだとしたら、米粒に文字を入れるような芸当だ。

 

(ルーンを刻んだスプーンを当てるゲーム、かな?)


 エミリアが思考を巡らせていると、フローラが立ち上がる。


「エミリア! もうレールのルーン消去は終わったのね!」

「ええ、グロッサムさんのおかげでスムーズに作業できましたので」


 グロッサムがふんと鼻を鳴らす。


「俺はレールを上げ下げしただけだ。あの癖が強い風のルーンもすぐ慣れて消しちまった……数日かかると思ったんだがな」

「癖が強い……あのレールがでしょうか?」

「身体が飛ばされそうになるような、風のイメージを感じただろう。あれだけの強いイメージの中で消すのは楽じゃない」


 ふむむ、エミリアも強風のイメージは受け取っていた。

 でもイメージに振り回されるようなことはなかった――と、これがエミリアの特性なのかもしれないと思い当たる。


 エミリアの精神のいくらかは、やはり受け身で抑制的である。

 そうした思考に陥ることは今でも皆無ではない。


 前世の記憶は行動的に作用しているけれど――魔術を使う際は受け身の自分が出る。

 そのほうが精霊魔術とルーンの消去には向いていそうではあるが。


(……これは訓練、境遇だからかもだけど)


「そうね、あのルーンの中で自分を保つのは楽じゃないわ。やっぱりルーン魔術の才能があるのよ」

「ま、まぁ……他のルーンはどうかわかりませんけれどね?」


 やはり褒められるのは気恥ずかしい。

 エミリアがフォードのほうに話題を向ける。

 

「で、フォードのこのスプーンは……」

「うん! これだけちょっと違うよね?」


 話題が変わり、グロッサムもはっとしてスプーンを見つめた。

 白い眉毛がぎゅっとなっている。


「……うぬ、そうだが。ようわかったの」

「偶然じゃないわよ。これで5回目なんだから」


 フローラが作業台の棚を開ける。

 そこには似たような調理用の小物――フォーク、菜箸、ミニカップなどなどが入っていた。


「ううむ、この子は何歳だったか?」

「4歳ですね」

「そうよ、その年齢でこれだけ魔力感覚が発達しているのは凄いこと……!」


 おお、やっぱりそうなんだ。

 息子を褒められるとエミリアも嬉しくなる。


 えへへ、とフォードも天使の笑みを振りまいた。

 可愛いやつめ……。


「驚くべきことだな。鷹の眼を持っておる」

「鷹の眼、ですか?」

「そうか、ウォリスに同じような言葉はないか……。鷹は崖から空高く舞い、猛スピードで獲物を狩る――それを可能にする優れた眼を持つからの」

「ルーン魔術師にとって、眼は一番重要よ。結局、ちゃんと刻印できたか消せたか……判別するのは眼だから」


 なるほどとエミリアは得心した。

 先日、フォードの魔力感覚は凄いのではないかと思ったが……。


 それを適切に評する言葉がイセルナーレの鷹の眼なのだ。


「じゃあ、フォードにはルーン魔術師の才能があると?」

「そうね……訓練を積めば、きっと素晴らしいルーン魔術師になれるわ」

「るーんまじゅつし……?」


 フローラの言葉にぴんと来ていないフォードが首を傾げる。

 

「ここで働いている、ルーンを使う人よ」

「へぇー……僕もなれるの?」

「神様は素晴らしい目を与えたようだ。大きくなったらなれるとも」

「じゃあ、早く大きくなりたいな~」


 フォードが顔を明るくして、天井を見つめる。


「あら、そんなに早く大きくなりたいの?」

「うん……そうしたら僕が絵本の中のルーンを使って、お母さんを守れるもん」


 その言葉にエミリアたちは衝撃を受けた。

 4歳が発する言葉にしては、あまりに重い。

 

「……フォード」

「お母さんも、無理はしないでね?」


 フォードの瞳が揺れ動き、エミリアの瞳を捉える。

 それだけで全部が伝わってきた。


 フォードはフォードで、色々と感じ取っているのだ。

 

 いきなり荷物を持って飛び出した朝。来たこともない国。新しい寝床。

 そして様々な場所に行って……。


 それが避けられないものだと理解し、受け入れて。

 フォードは彼なりに伝えてくれている。


 いつもは決して、こんなことは言わない。

 でもきっと、この場だからだ。


 まだ4歳なのに。

 励まして、そばに寄り添っていてくれる。


 本当は心配なんてさせたくないのに。

 でも、フォードは賢い。

 

 いつでも彼はエミリアを理解している。

 エミリアはそんな愛しの息子をそっと抱きしめた。

 

「ありがとう、私は大丈夫だから」

【お願い】

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