表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
4-1 宵闇に踊る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

249/285

249.貴族の生きる術

「はぁー、はぁー……」


 キャレシーはガネットの屋敷で簡素だがドレスをまとい、夜会への準備を進めていた。


「息を切らすな。夜会では肩で息をするという作法はない」

「……こんなに踊る必要あるわけ?」


 今日、大学は休講日。

 それを朝からぶっ続けで座学とダンスを詰め込んでいるのだ。


 タフなはずのキャレシーも大いに疲れている。


「目上からダンスを申し込まれたら、受けるのが第一だ。断ってもいいが、断り方にも様々ある――全部踊ったほうが角が立たない」

「ちっ……」


 すらすら答えるガネットにキャレシーが舌打ちする。


 悔しいが貴族の礼儀作法ではガネットに到底、かなわない。


 不服だが姉を想うとできるだけ頑張るしかなかった。


「……本番では舌打ちなんか間違ってもするなよ」

「するわけないでしょ」


 ガネットが疑わしいという目でキャレシーを見る。


 その疑いにまた舌打ちしそうになるが、さすがに自制する。


「まぁ、知識を頭に詰め込むのは問題ない。あとは身体動作を叩き込み、芯から生まれ変わればいいだけだ」

「はいはい……」


 ガネットは本気になったらヤるタイプだ。

 実際、座学の教え方はエミリアほどではないが、上手かった。


(……遠慮もないんだけどね)


 ダメならダメと即座にフィードバックがあるのも……今の時間のないキャレシーにはありがたい。


 何より、ここまで数十時間も付き合ってくれる根気強さはさすがだった。


「ダンスもメインの曲はほぼ、問題ない。これ以外のマイナー曲がでてきても応用で対処可能だ」


 キャレシーも驚いたのだが、宮廷のダンスはモジュール化されている部分がかなりある。


 基本の曲でない場合は、ほとんどそうらしい――でないと貴族も踊れないからとか。


「あとはそうだな、実際に踊るか」

「……誰と?」

「俺とだ。それ以外にいるか?」


 今のガネットは髪を整え、黒の紳士服を着ている。

 様になった格好だが……キャレシーは唇を曲げた。


「はぁ…………」


 必要だと理解できるがゆえに、憂鬱だ。


 この単純馬鹿は何にも考えない。頭にあるのは効率と勝利だけだ。


 今はふもふっもペンギンのルルを見返すためだけに、キャレシーを鍛えている。


(私、ドレスを着て男の人と踊るの初めてなんだけどな)


 平民生まれのキャレシーにとって、ドレスを着て踊る機会なんてなかった。


 正確には大学の入学式が終わった後に、夜会はあったのだが。


 服も化粧にも自信がなかったキャレシーはパスしたのだ。


「……わかった。あんまり激しく動かないでよ。これ、本番用じゃないけど借り物だし」

「ああ、最初は呆れるくらい遅くする」


 キャレシーはため息をついて、ガネットの手を握った。


 硬くて、でもしなやかだ。


 そして熱い。冷え性気味のキャレシーにとってガネットの手はちょっとびっくりするぐらい熱かった。


(……ガネットの体温)


 マズい。


 いらない意識をしそうになってキャレシーは慌てて口を開く。


「あんたは……女の人とよく踊るわけ?」


 おいおい。

 自分から言っておいて、馬鹿すぎる話題にうんざりする。


「うむ。母と何度踊ったかな……今も踊らされる。今日も踊った」

「え?」

「大学の同級生に踊りを教えると言ったら、再点検された」


 ガネットがゆっくりとステップを刻み始める。


 この踊りは冬の王の背中。


 それがさらに遅い。ゆらゆら、身体を揺らしているだけのような。


「社交界のアレコレは身に付けば、全部忘れたりはない。それでも再点検と技量の維持はしておかないとな」

「それが……あんたのお母さんと?」

「『人様にふざけたことを教えるな』ということらしい。まぁ、再点検は一発合格だったが。だから心配はいらない」


 ガネットの踊りは本当に緩やかで。


 だからこそ、ひどくもどかしくもなる。


 顔が近付くとなかなか離れない。


 いや、それは数秒のはずなのに。

 なんだか、すべてがとてつもなく遅く感じる。


 嫌がる顔ひとつせず。


 何時間付き合っても、ガネットはキャレシーのための教えに心を砕いていた。


 口調はいつもと変わらないが。


(でもコイツはコイツで、考えてはいるんだよね)

【お願い】

お読みいただき、ありがとうございます!!


「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、

『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!


皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!

何卒、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ペンギンにまた負けて、泣いて、さあ、甘やかしチャンス到来ですな!バブみルート到来
ガネット君、まさかの夜会に出席となったら……再びルルに闘志を燃やす羽目になりそうッすね……。 でも、そーなる展開にちょっとの十倍ほど期待(^^)/
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ