247.淑女への道
夜会の予行練習は終わったが、これで完全に何もしなくて良い――というわけではない。
エミリアはエミリアで学び直し、完璧を期さなければならないわけだ。
そんな日々が過ぎていき……キャレシーもまた、自分にできる範囲以上のことをガネットから学ぼうとしていた。
冬のイセルナーレ魔術大学の図書館にて。
本が立ち並ぶ書架でようやく、キャレシーは取り巻きのいない、ひとりでいるガネットを捕まえることができたのだ。
ガネットはパラパラと歴史学の本に目を通しては、本棚に戻していく。
彼の後ろにはキャレシーが立っていた。
「だから、なんで俺がお前を手伝わなくちゃいけないんだ?」
「……ちょっとくらい協力してもいいでしょ」
キャレシーが唇を尖らせる。
ガネットにマナーを教えてと言っても、彼は全然興味を示さなかった。
(まぁ、逆の立場なら私もそうするけれど)
「マナー程度、本を読めばわかるだろ。市中にもそういった教室はある」
「だ、か、ら。それだと不安なんだって――」
「能力的な不安じゃないだろ。精神的な不安は俺にはどうもできんぞ」
パラパラパラ。
ガネットは課題用の本を見つけるのに忙しく、キャレシーに向き合わないままだった。
「……そうじゃなくて」
「別にどこかの会程度、お前なら問題ない」
「…………」
キャレシーは迷っていた。
王族主催の夜会だとガネットに言うのは、負けた気分になる。
そもそも部外者であるガネットに言って良いのかもわからなかったが。
(センセーは……教師だからいいとして)
さらには、この負けた気分というのがキャレシーにはとても重要だった。
(……クソガキ)
考えた末、キャレシーは明後日の方向を向きながら……言った。
「あのペンギンの精霊も出るんだけど?」
「……あ?」
ガネットがぴたりと動きを止めた。
しめた、とキャレシーは思った。
「あいつも? そんな会なのか」
「そう、だからみっともない姿を見せたくなくて」
ガネットがルルにぶっ飛ばされたのは、数か月前のこと。
恨みには思っていないが、見返したいという気持ちはあるはずだ。
(ペンギンを見返すとか意味わからないけど)
しかし、絶好の機会ではある。
「……本当だな」
「ええ、確かよ」
ガネットが本を棚に戻して、キャレシーのほうを振り向く。
「よし。わかった。お前の練習に付き合う」
「ありがと」
「お前はイセルナーレで一番の淑女になる。俺がそう鍛える」
「……は?」
「歩き方も表情も、頭のてっぺんからつま先まで改造する。喋り方も食べ方も、完膚なきまでに改善する」
おいおいおい。
そこまでやれとは言ってない。
キャレシーの望みは、夜会で恥をかかずに済むレベルだ。
誰がそこまでやるものか。
「あのさ、ちょっと……」
「黙れ。俺は本気だ」
ガネットは確かに本気の目をしていた。
キャレシーが一歩、後ずさる。
あのふにっともこもこペンギンを見返すため、ガネットは全力を尽くすつもりだった。
(や、やりすぎた〜……っ!)
闘争心にちょっと火をつけるだけが、燃え上がってしまった。
どうやらルルパンチで吹っ飛ばされたのが、相当に悔しかったらしい。
「今からやるぞ」
「あっ、うん……」
「承りましたわ、だ」
ガネットがすかさず淑女語に訂正する。
仕方ない。
こうなってしまっては……自分でまいた種だ。
「…………承りましたわ」
夜会を乗り切るため。使えるものは使うしかない。
王族の前で恥をかくより、マシだと考えるしかないのだ。
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