241.予行練習
それからまた日にちが少し過ぎ、エミリアはフォードとルルを連れてロダンの屋敷に向かっていた。
12月も半ばであるのだが、海からの風は暖かい。薄い長袖で十分なくらいである。
「本当に暖かいねー」
「きゅー」
今日の目的は夜会の予行練習である。実際に服を着て、確かめる……ロダンに見てもらうのだ。
なので、今日は衣装ケース持参である。
前回、大きなケースを持って歩いたのは、イセルナーレに来た日だった。
(あの時は、まさか……王族主催の夜会に出るとは思わなかったけど)
すでにエミリアたちはロダンの屋敷でも顔馴染みだ。最敬礼の顔パスで屋敷の奥へと進む。
「よく来た」
「ロダンお兄ちゃん、こんにちは!」
「きゅー!」
フォードとルルの挨拶にロダンが顔を綻ばせる。
ロダンはふたりの前に屈んで、握手した。
「こんにちは。緊張しているか?」
「ううん! セリスお姉ちゃんにも見てもらって、大丈夫だって言われてるから!」
「きゅっ!」
「それは頼もしい」
実際、フォードの礼儀作法はエミリアとセリスの目から見る限りは全然問題ない。
ただ、それはウォリスに偏った作法ということを忘れてはならないのだが。
宮廷作法については、ここ100年ほどで急速に統一化が進んでいる。
しかもウォリスとイセルナーレは隣国なので違いはほぼないはず。
問題はむしろ、エミリアのほうかもしれない。
フォードは子どもだから……という面はあるが、エミリアにはそういう加減は適用されないだろう。
「きゅー!」
ぴこぴこぴこ。ルルも羽をパタパタさせて自信をアピールしている。
「ルルもやる気のようだな。楽しみだ」
ロダンが微笑む。
もちろん、ルルに求められるマナーはケープくらいなのだが。
料理の皿をひっくり返してもルルはノットギルティである。
なぜならペンギン(哺乳類扱い)だから。最強の免罪符をルルは持っている。
でも、そこはエミリアもロダンもセリスも指摘はしない。
ルル当人が夜会で頑張ろうとしているからだ。
エミリアは用意してもらった更衣室で着替え、ロダンの前に立つ。
ふわりとしたドレスの裾、主張はせずともしっかりと目立つ黒のドレス。
「どうかしら?」
「お母さん、きれー!」
「きゅー!」
「ふふっ、ありがとう」
思えばフォードの前でドレス姿になったのは初めてか。
一応、これでも元公爵令嬢である。
客観的に見ても、まだ大丈夫なはず……。
「よく似合っている」
「本当?」
「俺は君に嘘はつかない」
知ってる、とエミリアは心の中で微笑む。
「で、僕はどうするの?」
「広間に用意がある」
ロダンに伴われ、広間に進む。
そこにはマネキンやらテーブルやら……夜会を想定したモノが並んでいた。
ここまでやってもらうには、やはり広い家がいる。
エミリアの家も狭いわけではないが、こんな予行練習の場を作ることはできない。
「おー……」
「きゅー……」
フォードとルルが興味深そうにマネキンとテーブルを見上げる。
過度な恐怖心も興奮もない。いい具合に落ち着いている。
「場としては問題なさそうか」
「ええ、いいと思うわ」
これでマナーのチェックをしていくわけだ。
もちろんエミリアも自宅でフォードとルルへのマナー講座はやってきたけれど、最後はロダンに見てもらうのがいいだろう。
「よし、ではまず会場の歩き方から――」
無論、エミリアも対象である。
結婚生活から遠ざかった社交界の記憶を引っ張り出して、備えなければ。
なにせ、王族が出るというのだから。
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