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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
1-3 向き合う時

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23.初仕事

 フローラがエミリアのそばによって、耳打ちする。


「フォード君はわたくしが見ているわね」

「はっ、いいのですか?」


 なんという申し出だろう。

 フローラならルーンにも詳しいだろうし、安心だ。


「もちろんよ。グロッサムさんをお願いね」


 エミリアが頷くとフローラがフォードに優しく呼びかける。


「ルーンって知ってる? ここはルーンを作っているところなの」

「えっ!? あ、そうなんだ! へぇ~、ここでルーンを……へぇー……」


 来客経験も豊富なフローラの切り出し方は完璧だった。


 フローラに教えられたフォードがうずうずと身体を動かす。

 フォードに興味が出てきた証拠だ。


(思ったよりも食いついてる……!)

 

 そういえばイセルナーレで読む絵本の大部分にはルーン魔術が出てきていた。

 だからなのかもしれない。


 絵本に出てきたものにフォードは強く惹かれる。

 そこでエミリアはさっと切り出した。


「フローラさん、フォードにルーンを見せてくださいます?」

「いいの!?」

「わたくしは構わないわよ、見たい?」

「見たいですっ!」


 こうしてフローラはフォードを連れて歩き出した。

 やはり子どもの扱いがとても慣れている。


(フローラさんは結婚指輪をしていないけれど、この世界なら既婚者でおかしくないしな……)


 ウォリスの貴族は20歳までにほぼ全員が結婚する。

 イセルナーレではどうなのか、エミリアには知識がなかった。


 フォードとフローラが離れて、エミリアは改めてグロッサムに向き直る。


「お待たせいたしました。お仕事の件ですよね?」

「んぉ、ああ……」


 グロッサムがさきほど指差した方向へ歩き出す。

 なんとなく歯切れが悪い。


「……どうかされましたか?」

「いや、小さな子がもういると思ってな……。ああ、フローラから軽く聞いたんだ。イセルナーレの魔術師なら20歳で子どもがいるのは珍しい」

「なるほど……でも、どうかお気になさらず。仕事に集中いたしますので」


 グロッサムの背が少し揺れる。


 やはりイセルナーレではもう少し結婚が遅いのか。

 文明化している分、初婚年齢が遅くなるのはよくあることだ。


「……強いな。ここだ」


 グロッサムと来たのは工房の壁際だった。


 そこに一列で金属の棒が20本ほど置かれている。

 それぞれの棒の長さは1メートルほどで、太さもエミリアの腕より遥かに太い。

 妙な長方形の金属棒だった。


 錆びたり傷がついたりして、完全に綺麗な棒がひとつもない。

 両端も無造作に焼き切られている。


 さらにどの金属棒にもルーンが刻まれているのだが、全部がかなり劣化していた。


(ふむ……? これはかなり使い込んでいるような、にしてもこの金属棒は……)


「ちょっと失礼」

「あ、おい」


 エミリアは金属棒の前に屈み、手が汚れるのも構わず金属棒のルーンに触れた。


 意識を傾けると――ルーンの響きが聞こえる。

 弱って、ひび割れて。


 ルーンの響きは非常に弱っている。

 だが、エミリアはさらに意識を集中させた。


 この金属棒に何を託そうとしたのか。

 ……刻んだ魔術師の想いが流れ込んでくる。


 風だ。かすかに残ったルーンの力が囁いた。

 力強い、波を切り裂く風のイメージをエミリアは受け取った。


(この棒、もしかして……)


 これほど大量の金属棒、長方形、それに太さ――刻まれたルーン。

 エミリアは推測を口に出してみる。


「これって魔導列車のレールでしたか?」

「わかるんかい、さすがだ。そうさ、この棒切れはレールの成れの果てだよ。劣化したレールをぶった切ったんだ」

「ははぁ……ずいぶんたくさんありますね」

「……向こうの倉庫には、この何十倍も置いてある」

「ええっ!? 多すぎませんか?」


 レールの残骸だけで倉庫が埋まってしまうような。

 エミリアの驚愕にグロッサムが渋い顔で頷く。


「仕方ねぇ、ルーンを刻むより消すのが難しいんだ……。このレールは初期に埋設した奴で、もう30年は経ってやがる。取り替えないといけない」

「ですねぇ……」

「厄介なのは、ルーンが残っていると溶かせないことだ。きちんと消さずに炉に放り込んだら……」


 その後のことについては、エミリアも知っている。

 不安定な劣化したルーンは魔力の火花を放つ。火花が他の劣化したルーンと相互作用してしまったら、待つのは最悪の結末だ。


「爆発ですね」

「そうだ。はぁ……というわけで、この終わったレールをなんとかしないと、工房も倉庫もあふれちまう。……悪いが、頼めないか?」


 エミリアが立ち上がり、ぐっと拳を握る。


 仕事だ。お給料だ。

 やれることがあるのは、なんと素晴らしいことだろう。


 エミリアは勢い良く請け負った。


「お任せくださいっ」

【お願い】

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― 新着の感想 ―
賃金に「お」をつけて使用はしないと思いますので、お給料、にしてはどうでしょうか? 楽しく読ませていただいています。 頑張ってください。
・「厄介なのは、ルーンが残っていると溶かせないことだ。 ・きちんと消さずに炉に放り込んだら……」 ・その後のことについては、エミリアも知っている。 ・不安定な劣化したルーンは魔力の火花を放つ。 ・火花…
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