182.焼き仲間
数か月前、オルドン公爵家でノイローゼ気味だったエミリアではこんなに飲んで食べては不可能だったろう。
エミリアはフォードの見たことのないようなペースで食べていた。
母の豪快な食べっぷりを見て、フォードが声を弾ませる。
「お母さん、すっごい食べるね……! もっと焼いても大丈夫かな……?」
ルルがトングを振るい、ぷりぷりのホタテをひっくり返す。
その瞳は卓を囲む全ての人を満足させるという決意に満ちていた。
「きゅ……!!」
「焼くほうも負けてられない? そういうものなんだ……」
当然ながら四歳のフォードは料理を知らない。
フォードはトングを握ったことさえなかった。今だって、ルルはトングを握らせてくれそうにない。
だが、ぼんやりと世の中には焼肉奉行なる人がいるのだとフォードは学ぶ。
そうしてフォードは新しく来たマンゴージュースを飲みながら、焼き上がった野菜を食べていく。
マンゴージュースの鮮烈な甘みがキャベツのシャキシャキ感、オニオンの辛味と不思議に調和する。
炭の香ばしさがプラスされ、同じ野菜でも家で焼くのとは全然違う味わいだ。
「焼くのが楽しいの?」
「……きゅー」
ルルが首を振る。
「きゅっ!」
もっともっと深遠かつ偉大なもののために、焼くのです。
ルルが焼けたホタテを取り皿にすすっと移す。
話しながらもルルの目と羽は抜群に動き、焼き加減を誤ることがない。
「ふぅーん……」
一方、ホタテをフォークでよそうフォードは全然わからない。
「えーと、ホタテにつけるソースは……」
「わさび醤油よ」
すでに3杯目のビールを流し込んだエミリアが力強く頷いた。
「……信じて」
「う、うん……?」
なぜそんなにわさび醤油を勧めるのかわからない。が、ちょんちょんとわさび醤油をまぶしたホタテをフォードはルルのくちばしへと運ぶ。
「きゅー!」
「美味しい?」
「きゅっ!」
ルルが頬を動かしながら、次の焼けたホタテをよそう。
そしてエビ……殻のついているモノは見極めが難しい。
だが、ルルの精神はホタテによってさらなる領域に突入している。
「……きゅ」
きゅぴーんと目の光ったルルが絶妙のタイミングでエビを裏返す。
ついでに焼きが甘そうなところはトングで軽く押さえて、と……。
「おおー……こんがり〜」
「きゅ」
ルルはテーブルのそばにいる、ピシっとスーツを着たウェイターを羽で招く。
フロアにいる中で唯一、白髪のダンディなウェイターだった。
「うん? あの人に何か用?」
「きゅきゅい」
ウェイターが招かれ、お辞儀しながらルルに向き合う。
「お伺いいたします」
ウェイターの動作のひとつひとつには気品と風格があった。間違いなくそれなりの立場の従業員だ。
(……うん?)
エミリアはルルに呼ばれたウェイターの名札に「フロア支配人」と書かれているのを見た。
このような高級ホテルではフロアごとの責任者がいるのは当たり前だが、なぜルルに呼ばれるような位置にいたのだろうか。
もっと中央とか、キッチンにいるものでは……?
「きゅい」
「えーと……焼き方を学びたいなら、もっと近くでどうぞ。だって」
その言葉を聞いたウェイター、もといフロア支配人が深く深く頭を下げる。
「これは……なんと、見抜かれておりましたか」
「きゅ」
「焼き方を学ぶのに立場は関係ない。どうぞ、見ていって……だって」
そこまで訳してからフォードはエミリアを見た。
エミリアはふたりのやり取りをアルコールの回り始めた頭で考える。
「えーと、つまり……ルルの焼き方があまりに見事だから、この方がそれとなく観察していたということかしら……?」
「お恥ずかしながら……。お邪魔にならない位置であったと思いましたが、浅はかでしたようで」
エミリアがロダンに小さく尋ねる。
「……気づいた?」
「いいや」
エミリアもロダンも全然気づいていなかった。ルルだけが「焼き仲間」として察知したのだ。
そしてルルは焼き仲間に対し、もっと堂々と見ていってよ。と言っているようだった。
【お願い】
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、
『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!
皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!
何卒、よろしくお願いいたします!







