178.本探し
「もう見つけたのか?」
「きゅい!」
ぽむぽむとルルが頷く。
本棚には細かい字で書かれた背表紙が並ぶ。
もっこもこなルルの羽が指しているのは……しかし具体的にはどこだろうか?
「ふむ……」
ロダンがルルを両手で抱える。
「すまない、どの辺だろうか?」
「きゅい!」
ロダンも同じ疑問を持ったようだ。
ルルはロダンに持ち上げられながら、羽で指し示す。
「んー?」
フォードもエミリアもロダンも本を見つけられない。
ロダンがルルをすーっと上下させる。
「きゅ〜」
ルルの羽はぴったりと本棚の一点を指したままだ。
だが、これでかなり絞り込めた。
「あと少しだな……」
「きゅうぅ〜」
今度はルルを横移動させるロダン。
ルルの羽は常に一点を指し示している。
完璧な方程式でついに本のある位置が特定される。
「これね……っ!」
両手がふさがっているロダンに代わり、エミリアが目当ての本を棚から取り出す。
新時代のマネジメント新論、著者アルバート。ロダンの言っていた本だ。
エミリアの手に取った本は簡素な背表紙で、かなり薄い本だった。
いわゆる新書のような本である。
「よし、俺の本は見つかったな。ありがとう」
「きゅ……!」
お安い御用です。とルルが答える。
ロダンはルルを撫でると、フォードの背中にある定位置にルルを戻した。
「どんな本なのー?」
「俺もあらすじしか聞いてないんだが……」
ロダンが屈んで、フォードの目の前で本を開く。
エミリアもロダンとフォードの間から本を見てみるが……。
『マネジメントは古き良き羊飼いにも似ています。そこには自然の群れと人の作った群れが混ざり、それが――』
『北の狼の狩りは人間の狩りに匹敵します。事前の役割分担がしっかりとなされているからです。多くは追い立て役で、吠える役もしっかりと――』
エミリアは混乱した。
(なんで例え話ばかりなの? というか、生物学者じゃないわよね……?)
マネジメントの本のはずなのに、想像される内容とは全然違った。
これでいいのだろうか。エミリアの前提知識とはかなり違う。
「ふむ、相変わらずだな」
「ロダンは前にもこの人の本を読んだことがあるの?」
「ああ、この人は生物学者から経済学者に転向してな。書く本は大体、こんな感じだ」
プロフィールを聞いて少し納得するも、えー……とは思った。
(癖が強いなぁ……)
エミリアひとりなら、間違いなく本を棚に戻すだろう。
「最初はこのぐらいがいいだろうな。団長会議で取り上げてみよう」
「きゅー」
ルルはぷにぷにと賛成した。
エミリアがロダンの顔を覗き込む。
「団長会議……?」
「イセルナーレの各騎士団長が出席する会議だ。そこで議題が出てな。昇進基準を統一化したい」
ロダンが真面目な顔で説明する。
「問題はマネジメントだ。これまで魔術師にそのような素養は求められていなかったが、今後は必要事項にする。ただ、いきなり大きく変えると不満が出るだろう……」
ゆっくりとロダンが立ち上がり、本を閉じる。
「簡単な、課題図書みたいなものから統一化していけばスムーズに進むだろうと思ってな」
「…………」
エミリアが目をぱちくりとさせる。
思ったよりもちゃんと考えていた。
(……それならこれくらいのほうが、きっといいわね)
「ふぇー……ロダンお兄ちゃんって色々と考えてるんだねぇ」
「ああ、だが楽しいぞ」
ロダンがふっとフォードとルルに笑いかける。
それは本当に仕事を楽しんでいる男の顔だった。
「今は色々と変わる時代だ。大変なところもあるが、やり甲斐もとても大きい。……精霊くらいかもな、変わらないのは」
「きゅい……」
そこでルルが首を振ってロダンの言葉を否定した。
ルルが人の言葉を否定するのは珍しい。
自分のお腹をつまんでルルは泣く。
「……きゅう」
精霊も変わります。
特に、お腹周りはとても変わってしまうこともあります。
多分、そういうことをロダンは言いたいのではなかったと思う。
エミリアが軽く咳払いした。
「まぁ、それはどんな人も動物も同じよね……」
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