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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
3-2 新たなる仕事

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166/300

166.愛よりも深く、恋よりも激しく

 もちろん、エミリアは夜会に同伴する意味を知っている。

 その上での発言だ。


 基本的に夜会などへ同伴するのは親族か恋人、婚約者に限られる。

 その点については両者で合意があればいいだけだ。


 ロダンはうるさい周囲の者を納得させるために社交の場に出て。

 エミリアはちょっとした誤解を受けるだけ。


(……これくらいはしないとね)


 ウォリスでの留学時代なら決して受けなかっただろう。

 あの頃のエミリアには婚約者がいたのだから。


 それに比べて今のエミリアは気軽で身軽なご身分である。

 ロダンの為に使うのを渋るほど、自分に名誉があるとも思っていなかった。


「考えておこう……」

「ええ、この立場がちょっとでも役に立つならね」

「君とルルくらいだな」


 ロダンが視線をちょっと上げて、ふもふもなルルを見る。


「俺に世話を焼きたがるのは」

「あなたは大体、何でもできるしね。だからってのもあるかなぁ」

「どういう意味だ?」

「たまーに世話を焼けるのが楽しいのよ」


 エミリアのちょっとした言葉にロダンが不服そうに唇を曲げる。

 いつもの大人ぶった態度ではなく、20歳そこそこの青年の顔だった。

 

「趣味が悪いぞ」

「そう?」

「そんな思惑で俺に親切にしてたのか……」

「うん、だめ?」


 列車の窓の外に家が増える。

 田園地帯を抜けて、アンドリアに近付いてきたのだ。


 この旅はなんのためにあるのか。

 それを忘れるロダンではない。


「嫌だと言いたいが、現状だと君の親切が頼りだ」

「よろしい」


 留学時代ではたまに、こんなやり取りをした。

 エミリアはそっとロダンの前髪に指を滑らせ、かき上げる。


 凍てつく冬よりも白いロダンの髪。

 溶ける氷の心地良さに指を遊ばせる気分に似たものを味わいながら。


 そのままエミリアはそっと呟いた。

 心の奥が暖かくなるままに。


「……だから、ロダンも私を頼っていいよ。お互い様なんだから」

「ありがとう……」


 ロダンも同じことをきっと感じてくれた。

 エミリアはそれを疑わない。それだけの絆がある。


 愛よりも深く、恋よりも激しい。

 陳腐な言葉ではなにひとつ、他の人には伝えられない。


 だから誤解されても嫌じゃない。怖くない。

 お互いの為になら命さえも賭けられる。


 とっくの昔からそうだった――ロダンもそれを知りながら、まだ怖がっている。

 ただ、エミリアもそうかもしれない。


(綺麗な瞳……)


 ロダンの完璧な海に似た瞳にエミリアが映る。


 ウォリスに海はない。浅く狭い、川と湖だけがある。

 あの頃は海の果てを考えたことなんてなかった。


 今ははっきりと違う。

 イセルナーレに来てから、たまに思う。


 この世界も丸くて、ずっとずっと進めばまた出発点に戻ってくる。

 それはでも知識の話で、実際にそうしたことはない。


 エミリアの指はまだロダンの髪を弄る。

 今だけ、ここだけに許されたじゃれ合いだった。


 この寝台個室の扉を出れば、手を繋ぐこともない。

 だってロダンはエミリアの髪に決して触れないのだから。


 それでいいとエミリアは思っている。


(私には秘密があるもの)


 遠い遠い星の狭間に、エミリアの前世は漂っている。

 いつかまた、あそこに戻ることはあるのだろうか。


 エミリアの魂はずっとこの世界の水平線に宿ってくれるのだろうか。

 イセルナーレの、青く豊かな海に溶けてくれるのだろうか。


 ……目の前の蒼い瞳の先もまた同じだろうかと。

 手を伸ばし、海に漕ぎ出した者は何を見るだろう。


 そうした、とりとめもないことを考えていると――。


「はえっ?!」

 

 ぐぐっと列車に急ブレーキがかかった。

 慣性に抗えないまま、エミリアはロダンのいるほうのベッドに押し出される。


 そのままロダンの首元に口づけるように、エミリアは彼に身体を寄せた。

 寄せざるを得なかった。


「…………」

「大丈夫か?」


 素晴らしい反射速度でロダンがエミリアの肩を掴んでいる。

 なんてことはない。数十センチ、動いただけだった。


「……うん、ありがとう」


 エミリアが気を取り直してお礼を言うと、甲高いアナウンスが列車全体に響いてきた。

 こんな乱暴な急ブレーキをするのは………。


『大変申し訳ございません。進行先の線路上に精霊を発見いたしましたため、緊急停車をいたしました――』

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― 新着の感想 ―
( ̄▽ ̄;)またっすか? ( ̄▽ ̄;)地下鉄とかにしてもダメなんすかね? ( ̄▽ ̄;)でも、よく止まれますね… ( ̄▽ ̄;)普通の鉄道は、目視で確認してからブレーキかけたんじゃ、100%間に合いません…
>『大変申し訳ございません。進行先の線路上に精霊を発見いたしましたため、緊急停車をいたしました――』 ルルちゃん、出番だぞ! 精霊を説得するんだ! 上手くいったら、また缶詰貰えるかもよ!!
ナイス野生の精霊! 今度は何かな?
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