145.ルーンの講義
講義はまずレジュメの音読から。
この辺りは全然問題ない。ウォリスで学んだこととほぼ同じだ。
「――この基礎講座では主にルーンの判別と消去について講義します。このふたつはルーン魔術の基礎であり、ルーン魔術師を目指すなら必須の技能です」
そしてチョークを持って、板書も進める。
ルーンの判別は視覚と触覚で秘められた魔力や機能を見抜くためのもので、これもルーン魔術の基礎だ。
エミリアがルーンの消去をスムーズに進められるのも、この能力があるからこそ。
まずは世界に流通する2つの流派を説明する。
「ひとつは最古のルーンの流派。ネレイウス式です。これは大規模かつ巨大構築物向けのルーンです。最近ではイセルナーレの鉄道でも大いに活用されています」
ネレイウス式はかつて存在したネレイウス帝国にちなんでいる。
昔は水路や堤防、崖崩れ防止に使われたのだとか。
ブラックパール号の船体補強のルーンも大体がネレイウス式だ。
船舶、鉄道、精霊避けの結界とその範囲は極めて広い。
「次がウォリス式。個人向けにコンパクトにまとめたルーン魔術です。今日の個人邸宅に用いられる、生活には欠かせないルーンの大半がウォリス式です」
ウォリス式はそのまま、ウォリス王国で実用化されたルーンだ。
先日、ロダンが空を飛んだブーツやレッサムの軍用装備など……あるいは家の照明や冷蔵庫などの類もウォリス式である。
しかしウォリスがこのルーンを発明したのは1500年以上も昔だ。
今ではこの流派の最新鋭はイセルナーレやラ・セラリウムである。
(結局、貴族用のルーンから抜け出せなかったのよね……)
ウォリスではこれらのルーンの普及や発展を意図的に遅らせていた。
理由は単純で、そのほうが貴族階級には都合が良かったからだ。
だが、そのせいでイセルナーレとはもはや数倍の国力差が生まれてしまっている。
「まずそれぞれのルーンの機能を覚えるとともに――」
エミリアが板書をしていると、背後の学生でまたも魔力の威嚇があった。
魔力の隠匿を止めたり、再開したり。
ぴくっと反応するとすぐに止める。
明らかにエミリアをからかって遊んでいた。
(あの2人か……)
ふたりの存在は教壇からでもしっかり把握できた。
ひとりはまだ幼い顔立ちの金髪の青年だ。
中央下段に取り巻きと座り、教科書を開きながらにやにやと顔を伏せている。
もうひとりは最後方に座る背の高い少女。
くすんだ青色の髪が印象的で、ひとりきりだ。
彼女はつまらなさそうに教壇を見下ろしている。
このふたりがどうやら挑戦的な問題児のようだ。
前を向いた時に観察していると、青年とその取り巻きは周囲からも距離を置かれている。
無論、挑発行為はエミリアだけでなく周囲の学生にもわかるからだ。
巻き込まれないように周囲もしている。
青髪の少女のほうは孤高という表現がぴったりだった。
魔力の大きさや隠匿の技術を考えると、多分――この教室内の学生ではもっとも魔術師として秀でている。
だが、妨害行為というほどではない。
そもそもウォリスの貴族学院やオルドン公爵家のアレコレに比べたら、まさに子どもの悪戯程度の話だ。
エミリアはにこやかに講義を続けることにした。
黙殺されたのが不満だったようで、青年のほうから小さく声が漏れ出てくる。
「……ちぇ、つまんねー」
「ビビってんだよ」
「そうかぁー?」
講義を進め、次にルーンの消去に移る。
時間は残り半分ほど。
流派の話は正直、学生の反応もイマイチだった。
(ルーンの判別は座学が多いからねぇ)
だが、消去については実践も多い。
なので眠そうだった学生もふっと傾聴する姿勢になる。
「えーと、では……ルーンの消去について。まずは簡単に」
エミリアが教卓からごそごそと金属の板を取り出した。
飾り気のない鉄の薄板には、極めて簡素なルーンの刻印がされている。
これは講義用のルーンなので当然、格別の機能を持たない。
単に判読できる文字が浅く刻まれているだけだ。
『全てはここから』
それが20枚ほど。
「少し挑戦してみて、駄目なら後ろに回してくださいね」
レジュメによると、これはできる生徒を炙り出すためのもの。
というのも学生の数に比べて教員が常に少ないのだとか……。
(つまりここからグループを分けていこう、ということね)
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