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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-3 血によりて

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118/295

118.過去3

 マルテはロダンを手放した。

 彼はカーリック家で養育されることに決まった。


 たとえ自分の魂が引き裂かれても。

 これが最善の道のはずだった。


 唯一の救いは月に何度かロダンと会うことができること。

 1回につき、1時間ほどの面会時間。


 カーリック家の慈悲か。

 分別よく振る舞う限りは……今の地位のままでいられる。


「兄さん、私は……これで良かったの?」

「……マルテ」


 だが、マルテの精神は均衡を失いつつあった。


 涙が止まらない夜。

 ロダンが成長したら、この関係はどうなるのだろうか。


 わかっていたはず。

 こうなるだろうとレッサムは、兄は警告していた。


 レッサムはマルテを誘った。


「功績を積み上げるんだ、マルテ。あの組織は有能な魔術師を探している」

「……爵位を得られれば変わるかしら?」

「当然だ。そうすればロダンとももっと会えるようになる……」


 それは希望的観測に過ぎなかったが、マルテの味方はレッサムだけであった。


 カーリック伯爵にも愛情はあった。

 しかし、もうそれだけではどうにもならない段階に来ていた。


 レッサムは10歳以上離れたマルテのために、結婚さえも諦めている。

 マルテはそうして墓堀人になった。





 息子にふさわしい母になりたい――。

 執念がマルテを突き動かし、彼女は探求を積み重ねた。


 そして墓堀人になって2年余り、15年前にマルテは辿り着いた。

 アルシャンテ諸島の秘密へと。


 だが、マルテは落胆した。


「……モーガンの遺産が、これ?」


 巨大な石板の前には、ねじ曲がり節くれだった杖が刺さっていた。

 不気味な紫の木製の杖……。


 古ぼけた、この杖に秘密があるとは思えなかった。

 細かい傷だらけで骨董品にしか見えない杖。


 最新鋭の軍艦に比べれば、あまりにも貧相だ。

 軍が血眼になって探す物品とは思えない。


「軍艦のほうがよほど価値があるでしょうね」


 石板にも細かい紋様が刻まれているが、マルテには読み取れなかった。

 この石板や杖がイセルナーレの求める魔術の奥義であろうはずがない。


 2年を費やした探求は無駄に終わった――。

 そしてマルテは何の気もなく、杖を観察した。


「……え?」


 そこでマルテは見た。

 杖の傷だと思ったのは、微細なルーン文字だったのだ。


「こんなルーンが……!?」


 それはマルテが知る中でもっとも緻密、信じられないほどの密度のルーン。

 マルテは直感した。これが組織の求めていたもの――。


 この杖があれば、組織の期待に応えられる。

 ロダンにふさわしい母になれる。


 この杖に刻まれたルーンはどのような力を持つのだろうか。

 マルテは興奮を抑えられず、杖を手に取った。


 そして、マルテは聞いた。


『お前には資格がない』


「えっ――?」


 魔術師はそこにいるだけで微量な魔力を放つ。


 もちろんマルテは魔術師として、普通の魔術師に感知されないレベルにまで魔力を隠蔽できはする。

 それでも漏れ出す魔力をゼロにするのはほぼ不可能だ。


 マルテの身体から放たれる、ごくわずかな魔力。

 白の魔力に杖が反応した。その途端に杖から雷撃が放たれる。


 黒く、炎にも似た弧を描く雷撃。

 マルテが杖から弾かれ、床に尻餅をつく。


「ああっ!?」


 杖を握った右手は焼けたわけではなかったが、全身が痺れる。

 身体から出た魔力はほんのわずかな量だったはず。


「……セーフティー機能?」


 古代のルーン装具には、このような仕組みもあるという。

 イセルナーレの国宝である伝説の銛カリブディスは王家の人間以外を拒絶するのだとか。


 だが、現代では廃れた技術だ。

 そのようなルーンは残っておらず、作ることもできない。


 この杖もつまり、それほどの逸品だということ。

 そして……わずかな魔力に反応したということは、そのままでは使えないということ。


 マルテにとっては最悪の結果だった。


「ここまで来て……! 諦められないっ!」


 マルテは吠えた。

 拒絶がなんだ、その程度で諦められるか。


 マルテは立ち上がり呼吸を整える。

 痺れはマシになっていた。


 右腕に力を込めて、マルテは杖を掴む。


「ぐっぅぅ……!」


 杖から再び、雷撃が放たれる。

 でも来ると分かっていれば――踏み止まれる。


 全身を焼かれながらマルテは意識を切らさなかった。


 超微細なルーン文字の刻まれた杖。ロダンへの道。

 全身が悲鳴を上げてもマルテは手を離さない。


 マルテが探したのは、セーフティー機能のルーンだ。

 そこを崩してしまえば、この雷撃も止まる。


「はぁ、うぅっ! ぐっ、あああっ……!!」


 黒の電撃がマルテを焼き続ける。

 苦痛が全身を舐めまわし、痺れが覆う。


 常人なら一瞬で諦める苦痛に、マルテは耐えた。

 この杖があれば、これほどのルーンがあれば……爵位への道が見える。


 諦めるわけにはいかない。


 マルテは杖の持ち手の裏にわずかな胎動を感じた。

 放たれる雷撃の中で、驚異的な閃きがマルテを突き動かす。


「……私のモノになれ!」


 人差し指を滑らせ、胎動するルーンに魔力を込める。

 ここだ。ここがきっとセーフティー機能のルーンに違いない。


 マルテが胎動するルーンに干渉した瞬間、雷撃が弾ける。

 そしてマルテも見た――彼女を。


 彼女の幻影を、垣間見てしまった。

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― 新着の感想 ―
純粋で正しい執念は認められる世界であってほしい 甘い考えですけどね
いつも楽しく読んでます! いろいろ犯人浮かんできて、ここに来てマルテさんのヤラカシ?で良いのかな?無理をしたせいで、この後に大きな悲劇があるのだろうか!! もしもだけど、生まれた子が女の子やロダン…
面白いんだけどそろそろタイトル詐欺だなと思う。母親の経験と忍耐力が重要なのは分かるんだけど。元クズ夫ワケありシングルをファンタジー風に的確に表現したタイトルってなんでしょうね?
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