114.戦いが終わって
レッサムは砂浜に膝をついた。
ルーンの装具への魔力が絶たれ、超人的な戦闘力が消える。
「……馬鹿な」
「伯父殿の敗因は精霊魔術師との戦闘経験のなさだ。海軍出身なら無理もないが……」
レッサムが憎々しげに視界の奥、金庫のそばにたたずむエミリアを睨む。
あの女が。すべてを台無しにした。
ロダンがレッサムの視線を咎める。
「彼女をそんな目で見ることは、俺は許さない」
膝をついたレッサムの頭をロダンが拳で打ちすえる。
そのままレッサムは砂浜にうつ伏せで倒れ込んだ。
「ぐっ……!!」
「伯父殿、もう妙なことは考えないことだ。神妙に司法の裁きを受けろ」
ロダンが氷の剣を変化させ、氷の蔦を生み出した。
純白の蔦は器用に這い、レッサムの装備を解除していく。
一連の行動をレッサムはじっとされるがままだった。
そこにどこかエミリアは不気味なものを感じた。
「――お前のもうひとりの協力者も今頃、騎士団の別動隊が捕捉している」
「…………」
精霊カモメへの意識を切らさず、エミリアはロダンに問う。
結局、もうひとりの容疑者についてエミリアはしっかりと聞いてはいなかった。
「この人のもうひとりの協力者って……」
「クオリッサ夫人だ。彼女以外、存在しない」
「……っ!!」
エミリアは衝撃を受けて絶句する。
あの、責任感がありそうなクオリッサ夫人が……。
「ブラックパール号の情報を入手し、この金庫の件も把握していた。あの倉庫でも……彼女なら、たやすく罠にはめられただろうな。実の息子を」
「そんな……」
「彼女だけではもちろんない。手足になって動く人間は何人もいただろう。墓堀人は常に闇の中にいて、執念深い」
「……クオリッサ夫人は関係ない。すべて、俺がやったことだ」
意外なことにレッサムはロダンの推理を否定した。
エミリアもそうであればいいと思ったが――ロダンはこうしたことで間違える男ではないと知っている。
「本当にそうなのかは、司法の場でわかることだ」
ロダンは絶対にそう言うだろう、ということを言った。
誰に対しても、何にしてもロダンは妥協というものがない。
「……まもなく騎士団の船が来る」
「ロダン、頼みがある」
ロダンはそれに答えない。
レッサムが砂にまみれながら、ロダンへ哀願した。
「あの金庫の中には、何がある?」
「伯父殿は知っているはずだ。ブラックパール号の設計図の写し、15年前の暗号表や秘密の連絡先、作戦指令書……」
「……それだけだと思うか?」
レッサムの言葉には凄みがあった。
敗北したはずなのに、彼の瞳は死んではいない。
「違うはずだ。マルテは成功させたはずだ。あいつは辿り着いたはずなんだ……。そう、あいつは見つけた! 答えを! 意義を! わかっているはずだ、お前にも!」
「伯父殿、もう終わったのですよ。15年も前に……母は死んだ」
「お前も奴のように……拒絶するのか。終わってなどいない。マルテは無駄死になんかじゃ――」
「――エミリア」
ロダンがレッサムから視線を切らず、エミリアへ話しかけた。
「目を閉じていてくれ」
エミリアがぎゅっと目を閉じる。
ロダンが何をしたか、エミリアにはわからない。
ただ、何か鈍い音と砂が舞い散る音がした。
そしてレッサムの声は途切れた。
「もういいぞ」
「うん……」
エミリアが目を開ける。
レッサムは完全に気絶したようだ。
ロダンのまとう雰囲気が恐ろしい。
命を賭けた戦闘後というのを差し引いても、彼は怒気を発していた。
まもなく、騎士団と警察の巡視艇が小島に到着した。
巡視艇は全長20メートルほど……さほど大きくはない。
続いて、ルーンの装備をまとった騎士団員と警察が次々に上陸してくる。
その中にはテリーの姿もあった。
ロダンの姿を認めたテリーがほっと息を吐く。
「団長、ご無事で……!!」
「いいタイミングだな。彼がレッサム――油断せず、ただちに連行しろ」
「はいっ! 団長は――?」
「金庫の中を確かめたら戻る」
気絶したレッサムの全身をテリーらが調べ始め、徹底的に武装を確認する。
その後、手錠と足かせがはめられたレッサムは騎士らに担がれて船へと運ばれていった。
ただ、それで人がいなくなったわけではない。
現場検証だろうか。騎士や警察が砂浜をあれこれと調べている。
がやがやとした人気の中で、ロダンの熱が急速に去っていった。
ゆっくりとロダンが金庫の元にやってくる。
「……金庫の開封作業を続行しよう。大丈夫か、エミリア」
「私は大丈夫よ」
大勢の人、他の船が来たことでエミリアもようやく緊張が解けてきた。
精霊カモメが金庫の上ではばたく。
エミリアが精霊カモメに微笑みかける。
「ふきゅー」
「あなたもありがとう、本当に」
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