110.黒岩
ロダンはゆっくりと船を旋回させ、小島へと近づいていく。
本当に島は小さくて、5分もあれば一回りできそうであった。
さらにエミリアが周囲を見渡すと、同じような島がいくつも点在している。
どれもが同じような大きさで、人が住んでいる気配はない。
「さて、近くに寄るぞ」
ロダンが舵を取り、慎重に船を進める。
船の上から覗き込むと透明な海に珊瑚が目に映る。
赤、青、色鮮やかできらびやかな小魚……。
美しい海が広がっていた。
「手を伸ばすと魚が掴めそうね」
「……この海域の魚の多くは有毒だな」
「えっ」
エミリアが伸ばしかけた手を引っ込める。
確かに精霊カモメも魚がいるのに、席の上でとろーんとしているのはそういう訳か。
ロダンが細かく船を操りながら、島へと接近する。
回り込むようにすると、大岩と小島の間にはさらに珊瑚礁が広がっていた。
水深が浅い分、余計に美しく珊瑚が見える。
だが、それは同時に船が通れないことも意味していた。
小島の砂浜や海にはフジツボや苔まみれの岩がいくつも突き出ている。
それぞれの大きさは50センチから1メートル程度だろうか。
やはり相当浅い海域らしい。
「これ以上は無理だな」
「また跳ぶの?」
「それしかないな。幸い、もうすぐそこだ」
ロダンが錨を降ろし、船を停泊させる。
砂浜までは数十メートルあったが、水深は1メートルもないように見えた。
操舵から離れたロダンがエミリアの隣へと歩いてくる。
「用意はいいか?」
「……う、うん」
エミリアが精霊カモメを抱え、そんなエミリアをロダンがお姫様抱っこする。
がっしりとした筋骨と腕回り。
前回は夜で突然のことだったから、体感時間は短かった。
今ははっきりとロダンの存在を感じ取れていた。
身体を硬くして縮こませるエミリアに、ロダンが小さく呟く。
「……怖いのか?」
「そういうわけじゃなくて……」
ロダンは何かを勘違いしているのだと思いつつ、訂正するのは気が引ける。
家族以外でこんなことを許すのはロダンだけなのだから。
(意識するのも――どうかとは思うんだけれど。他意はないのよ、本当に)
ただ、彼が近くにいることにまだ慣れないだけだ。
胸の奥がむず痒くなる。
「怖ければ目をつむっていろ」
「……そうする」
彼の勧め通り、目を閉じる。
エミリアは胸の中にいる精霊カモメに意識を集中させた。
ロダンの足元、背に魔力が集まっているのがわかる。
一瞬ののちに身体が空を舞う無重力感があり――風を切る音がした。
驚くほどロダンの筋力は強く、エミリアの身体はほとんど揺れない。
そのまま数秒、滞空して着地する。
前回同様、衝撃緩和のルーンのおかげで着地も問題なかった。
そろりとエミリアが目を開けると、小島の砂浜にふたりはいた。
「降ろすぞ」
ロダンが腰を屈め、エミリアをそっと降ろす。
前もそうだがガラス製品を扱うみたいな丁寧さだった。
(……これも他意はないのでしょうけど)
気を取り直し、砂浜から見ると岩が点在している。
その中のひとつ……打ち寄せる波打ち際にエミリアの胸の高さほどの黒岩があった。
これ自体はなんということもない。
他にも似たような岩は周囲に点在している。
黒岩までは約10メートル、岩の下部を波が行ったり来たりと洗っている。
エミリアの今日の靴は防水性だ。
「これ……」
砂浜を踏み、海へと立ち入る。
フジツボだらけの岩に近寄ると、魔力の気配がする。
冷たく、硬質な魔力。
前に触れたマルテの魔力だった。
「君にもわかったようだな」
「ずいぶんと大きな金庫ね」
よく見ると黒岩には溶接した跡とダイヤルがついていた。
フジツボと苔で非常にわかりづらかったが……。
大人さえも入れそうな巨大金庫、それがこの大岩であった。
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