英雄採用担当
面接。
それは面接官と候補者が繰り広げる戦いである。
候補者は己の存在意義を訴え、面接官は自社で活躍しうる人材かどうかを見極める。
東京のある会社の一室で今まさに戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
「・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「————あの、質問しないんですか?」
戦闘開始から3分が経過し、静寂を破るように女が口を開いた。
「え?あ、あぁ、し、質問ですね!ええと、ご趣味は?」
「いや、お見合いかッ!」
面接官相手に、女が思わず突っ込んだ。
女の名は山本 華。26歳。
職業、英雄である。
「お見合い?へへへっ・・・面白い冗談、あ、すみません。ええと・・・。聞いてほしいことあります?」
一方、面接官を務めているポンコツの名は芳賀 蓮。
紆余曲折あり、英雄採用担当としてある会社で今さっき勤務することになった16歳の青年である。
「————はぁ。あのね、君私のこと馬鹿にしてる?そりゃそこまで実績ないかもしれないけど、遠距離攻撃は重宝するはずよ?後方支援は得意なのよ?」
「え?あ、遠距離から攻撃できるんですね、わ、ワーオ!」
「・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ワーオッ!」
「さっき聞いたわよ!!!!!!!!!!面接官でしょ!?さっさと掘り下げなさいよ!!!」
慌てて芳賀は手元の履歴書と職務経歴書を読み込む。
普通なら面接前に一定目を通しておくべきものだ。だが、芳賀にそんな余裕はなかった。
「お前、ちょっと面接行ってこい」という一言で書類を押し付けられたのが5分前。
どんな候補者が来るのかは勿論、なんの面接かも分かっていない状態である。
「・・・・・・もしかして・・・」
「な、何よ?」
急に神妙な様子になった芳賀に山本は戸惑う。
「本当はもっと前線出たいんじゃないですか?」
「・・・い、いきなり芯食った質問しないでよ!ギャップ激しいわよ!」
「す、すみません」
「———なんでそう思うの?」
「いや、その、今の会社で最近後方支援部隊に異動になってますよね。それまではずっと前線部隊にいたみたいですし。な、なんでかなぁと・・・」
山本は芳賀の答えを聞いて深くため息を吐く。
「———君の言うとおりよ。本当は前線で魔族と戦っていたいの。でもまぁ私の会社、子会社だから。親会社の英雄達の顔を立てろっていう方針になったの。お前達は後ろで邪魔をしないように、援護だけしてればいいって。馬鹿みたい!!!」
「———それは、なんというか。」
芳賀はとても愚かな話だと思った。
人類にとって共通の脅威である魔族との戦いがある中で、そんなくだらないしがらみが存在してると言うことに心底驚いた。
「とにかく、私はちゃんと英雄の個性を見てくれて、変にくだらない政治争いとかもない会社に行きたいの。英雄譚さんはその辺どうなの?」
「え?ど、どうなんでしょう・・・でも、そうですね。そんな政治みたいなものはない、と思います。みんな一生懸命ですから。」
芳賀は英雄譚株式会社との出会い、そして今日に至るまでの出来事を思い出す。
時間にしてたった数日の事ではあるが、働く人々の矜持を見た。皆、実に真っ直ぐなのだ。
微笑む芳賀を見て、山本はそれが嘘ではないのだろうと感じた。
「ふうん・・・ちょっと興味わいたかも。正直、エージェントに勧められただけで、そんなに来るつもりなかったんだけど。ねぇ、なんで貴方はこの会社に入ったのか教えてくれるかしら?」
「———込み入った事情もあるんですけど、そうですね話せる範囲で良ければ」
そういうと芳賀は過去を振り返りながら語るのだった。
かつて史上最強の英雄だった男が英雄採用担当になるまでの物語を。
冒頭の第一話をガラッと変えました。
※以降のエピソードに大きな影響はありません(多分)
週1-2話の更新予定です。