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Episode-5

ユーベルト侯爵家に届いた王家主催の夜会パーティの招待状。

王太子と約束したことを思い出し、久々に邸へと戻ってきたルナ。


「お父様、お身体にお変わりはありませんか?」

「ああ。大丈夫だよ。お前も無理はしていなか?」

「この通り、ピンピンしておりますわ」

「今宵は良き月が見える」

「ええ。お母さまも喜んでおりますわよ。この月の綺麗さに」

「して、お前はどうしてそんな化粧をしているのだ」

「ふふ。これで良いのです」



◆⁺◆⁺◆

夜会会場の城へぞくぞくと足を運ぶ、華麗に着飾った令嬢たち。

今回の夜会では、王太子の婚約者指名も兼ねており、多くの令嬢が招かれていた。

王太子が選ぶ婚約者を一目見ようと令嬢が集う中、人目を引く令嬢の姿が入り口近くに現れた。

彼女を見て口節に呟かれるのは罵詈雑言。


「見て、あのお顔…」

「どこの令嬢ですの」

「醜い顔。化粧もまともにできないのかしら」

「どうして招待されたの」

「令嬢とは思えないですわね」


何を言われようと気にしない令嬢こそ、ルナ本人だった。

周りが騒めく中、その中の中心へと足を運んだのは、カルメラ公爵家令嬢のハンナだった。


「何を騒がしくしているの」

「ハンナ様…」

「こちらのお方なのですが…」


令嬢たちがその場をはけると、ハンナの目の前にはルナの姿が現れた。


ルナは淑女らしくドレスの裾をもち、ハンナに向かってお辞儀をした。


「ハンナ様、お初にお目にかかります。ルナ・ユーベルトと申します」

「ユーベルト……侯爵家の……ふんっ、よくもまぁそんなお顔で、今宵の夜会に顔を出せましたわね」

「王太子殿下より招待を受けましたので、断るなんて滅相もございません」

「殿下が直々に?……あなたみたいな人を誘うわけありませんわ。あなたみたいな人が居るだけで夜会の雰囲気が台無しですわ」


ハンナは、手にしていた飲み物を、目の前に屈んでいるルナの頭からかけ流しながら言い放った。


「あなたは今宵の夜会にふさわしくないですわ、どうぞお帰り下さいませ」


頭から水滴が落ちる中、持っていたハンカチで顔を拭ったルナ。

しばらくした後、周りは口節に言った。


「さっきのが……お化粧なの?」

「別人じゃない……」

「お綺麗……」


化粧であえて醜くしていたルナ。

頭から飲み物をかけられたのは予期せぬ出来事であったが、ルナには好都合だった。


「これではせっかくのドレスも台無しですので、私はお先に失礼いたします」


入ってきた場所から出ていくルナ。

その背後には、何かを企むハンナの姿があった。



「せっかくの機会だし、中庭にでも行ってみようかしら」


そう呟き、ルナは城門出口の隣にある中庭へ通ずる通路へと引き返した。


「さすがはこの国を誇るだけあるわね。お母様、高台から見える月も綺麗だけど、ここから見える月も綺麗よ」


一息吐き、ルナは踊りだした。

そこに音楽はないが、ルナにだけ聞こえているかのように華麗に舞っていた。


「中庭で誰か踊っていますわよ」

「なんと美しい舞踏だ」

「あの方は……」

「月下の舞姫ではないか」


ダンスホールから中庭の様子が見えるとは知らず、ルナは踊っていた。

そんな姿を一目見ようと窓際に近づく人の中に、1人唇を噛みしめ睨み付ける人物がいた。そそくさとその場をあとにし、ある人と待ち合わせをしていた東塔へと急いだ。


「依頼人はあんたか」

「中庭にいるわ。狙いやすいでしょう」

「そうだな」

「頼んだわよ」

「仰せのままに」


東塔から戻る途中、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ここは立ち入り禁止区域だが、何をしていたんだ」

「……」

「話さない、か。まぁいい。衛兵、取り押さえろ」


一方中庭。

何も知らないルナはひとしきり踊り終え、息を切らしながら月を眺めていた。


「お母様……」


パキッ

枝が折れる音が聞こえ振り返ると、そこには見慣れない人がいた。


「あなたは……誰?」

「恨むなら、ここに来た自分自身を恨みな」

「どういうこと」

「死に行く者には関係ないさ、覚悟っ!!」


懐から出てきたのは、紛れもない短刀だった。

その人物は狙い定めたように、刃先をルナへと向けた。


「お母様と同じ運命なの、ですね」


この運命を受け入れるかのように目を閉じたルナ。

だが、

聞こえてきたのは剣が弾かれた音だった。


「なにっ」

「彼女には手を出させない!!」


ルナが目を開けると、そこには剣を持ったディルクの姿があった。

彼の合図とともに多くの衛兵が駆けつけ、ルナを襲った人物を取り押さえた。


「ディルク殿下……?」

「貴女の母君と同じ運命なんて歩ませない!!」

「……」

「貴女には大切な役割があります」

「私には……」

「私の傍に居てください!!」

「そんなことできませんわ」

「一国の王太子が、1人の女性に恋をしただけのこと」

「殿下には、私よりも相応しいお方がいるではありませんか!!」

「彼女のことでしたら、ここにいる人物がよくご存知のはず」

「どういう、ことですの……」

「貴女の命を狙ったのは彼かもしれませんが、裏で糸を引いていたのは別の人物です。それが彼女です」


そう言われ、衛兵に連れて来られたのは、ハンナだった。


「ハンナ……様」

「私は何も悪くありませんわ。悪いのは全て貴方ですわ」

「ハンナ。すまない。君の気持ちに答えることはできない。私が全て悪かったと認めよう。だが、それとこれとでは話が違う。君がしたことは罪深いことだ。処分は追って下す、連れていけ」


こうして暗殺を企てたハンナと、暗殺を実行しようとした者は牢へと送り込まれた。


後々に、暗殺者はルナの暗殺未遂だけではなく、彼女の母親をも刺殺した罪を重ねていたことがわかり、即刻打ち首となった。

ハンナに関しては、ディルクの口添えにより極刑は免れ、隣国への追放処分となった。



物語の主人公のルナは言うと、ディルクからの熱烈な求婚を受け入れ、妃教育を受けつつ、今では彼を傍で支える、よきパートナーとなっていた。

国事に参加しては、その先々で踊りを要求されつつも、最愛の人を独り占めしたいがために、王太子自ら断るようになっていた。


「ディルク様、私は踊っても構わないのですよ」

「それでは私が困るんだ」

「どうしてですの」

「嫉妬に狂って、何をしでかすかわからないよ」

「それは困りますわね」

「幸い、今宵はあなたとともにふたりきりだ」

「人払いをしたのはディルク様でしょう」

「そうだ。貴女さえよければ、私の前で踊ってくれないか」

「わかりました」



これまでは、天へと旅立った母への思いを乗せて舞っていたが、これから先は最愛の人へ舞踏しようと思うルナであった。

虎娘『今宵はあなたとともに Episode-5』

を読んで下さり、誠にありがとうございます。

この作品はこれにて完結です。

作品に関して、良かったなぁ、と思ってくださいましたら是非とも★での評価、いいね、をポチポチとして下さいませ。

また感想をいただけますと、私の励みにもなりますので、何卒よろしくお願いいたします。


今後とも虎娘の作品をよろしくお願いいたします。

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